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【感想】あなたは何のためにお金を使いますか? 三千円の使いかた

三千円の使いかた
原田ひ香

三千円の使いかた 原田ひ香

所感と感想

 初めてタイトルを見たとき、ビジネス書か実用書なのかと思いました。

 次いで物語だと知ったとき、岸見一郎・古賀史健の「嫌われる勇気」のような内容なのかと予想しました。

 読んでみると、ビジネス書や実用書は関係ありません。

 お金をテーマとした物語であって、お金を学ぶための本ではありませんでした。

 いいえ、お金のことも学べます。

 お金に対する向き合い方とか、貯金の考え方とか、物語を通して出てくるお金の知識はどれも具体的でした。

 でも、それが本題ではなく、メインは人間ドラマであって、その中にお金の知識も入っているというだけ。

 人は三千円の使い方で人生が決まるよ、と祖母は言った。
「第1話 三千円の使いかた」より

 という書き出しから物語は始まります。お金と人生、そんな物語です。

 第1話から第6話までありました。

 話ごとにそれぞれ主人公が変わっていき、さまざまなお金の悩みが出てきました。

 心温まる優しい物語を通して、あなたは何を大事にして、何にお金を使って生きていきますか? と、問いかけられているようです。

 とくに最後、お金は手段だというように綺麗にまとめられているのもほっこりしました。

 日々の生活、将来への不安、価値観の違い、夢、家族愛、恋人、新しいライフステージ。

 さまざまな場面で出てくるお金の問題は切っても切り離せなくて、でも、決してお金が主役になることはありません。

 主人公たちは、自分が何を大事にしたいのかと悩んで選んで前に進んでいきます。

 そんな彼らの姿に、自然とお金との向き合い方を学ばされました。

 お金が主役ではないのに結局はお金に行き着く、だけどそこには愛があって明るい未来の予感にスッキリした読後感だけが残ります。

 重くなりがちなお金の悩みに希望が差し込むような、彼らを見習って私もお金と向き合おうと思えるような、温かさがあります。

 お金に悩みすぎて気持ちが落ち込んだとき、大切なものを見失って迷子になったときに読みたい本でした。

批判の前置き

 ここから先は悪口を書きます。

 悪口というよりは、私個人の好みなので本に問題があるというわけではありません。

 そのため、読んでも意味はないです。私の自己満足です。

 ネガティブな内容が嫌いな場合、ここから先はお控えください。

 強いてメリットを上げるなら、小説を書く人には参考になるかもしれないという感じです。

 参考になる、と言い切れるほど具体的には書いていないんですけど。

批判

 良くも悪くも、現代のネット社会的な文章だと思いました。

 簡潔でわかりやすい文章に、合理的で迷いのないシンプルな展開の物語。

 とても読みやすい反面、これは小説である必要があったのかなと疑念を抱かせます。

 物語の表現方法は小説だけではありません。

 マンガにイラスト、アニメやテレビドラマ、舞台、写真などなど。種類はさまざまです。

 そして、それぞれ得意とする固有の技法があって、それが物語に深みを出していきます。

 小説の場合だと、「行間を読む」といわれるものでしょうか。

 具体的には、悲しいと書かずに悲しみを表現することで、読み手に言葉の裏側まで想像させて余韻を作るんですよ。

 この本は文章をわかりやすく簡潔にするあまり、無駄を削ぎ落として、小説としての表現まで取り除いてしまった感があります。

 そうなると、本当はドラマを作りたかったけどできないから仕方なく小説で書きました、というようにも見えるわけで。

 なぜ小説で表現したの? 小説でなければいけない理由があったの? と思ってしまうんですよね。

 いや、私がただインスタントで読みやすいネットの文章より、物語には小説の表現を好んでいるというだけなんですけど。

 つまり何が書きたかったかというと、文章は私の好みではなかったということです。

余談

 感想とはズレるので省いた内容です。読みたい方だけどうぞ。

テーマ①「全部書く」

 良いことも悪いことも、前提も説明も全部です。本当に全部書けているのかはわからないんですけど、そのつもりで書きました。この余談もそのひとつです。その代わり、内容ごとにそれぞれ分けています。混ぜて書くのは、私がわかりにくいなと思いました。あと、感想は読むならいいところだけのほうが良いんですが、書く側として一部だけというのは自分を偽っているような感覚があってモヤモヤしちゃうんです。わざわざ嫌なことも書きたいなんて、我ながら性格が悪いなと思うんですけど。
テーマ②「ネタバレは書かない」

 全部書く、というテーマとは矛盾しているんですが挑戦してみました。私はネタバレを気にしない人間なので、「これはネタバレじゃないよね」と問いかけながら頑張りました。難しかったです。この本は終わりかたが好きだから、その部分を書かないようにするのがとくに大変でした。でも、実のところ何がネタバレなのかすらもよくわかっていません。だから挑戦してみたんですけど、ネタバレを気にする人には、「ないから安心して見て」とはすすめられないです。
感想文の感想

 言葉がまとまるまで長かったです。私は理解が遅いのか、心や思考が形になるまで時間がかかるんですよね。長く余韻に浸れるといえば聞こえはいいかもしれませんけど、実際は浸る途中で日常に紛れて忘れがちです。私の気持ちはコレだよ、としっくりくるまで何度も書き直しました。感想文はこういうところが難しいです。
岸見一郎・古賀史健の「嫌われる勇気」

 アドラー心理学についてシナリオ形式で書かれた、小説のようなビジネス書です。大切な人を大切にするために私は今ここにいるんだという共同体感覚が人間の幸せであるとアドラーは考えました。一方で不幸は、ほめられるための承認欲求から始まっているため、嫌われる勇気を持って他者の評価を手離す課題の分離から始めようという内容です。ただし、アドラー心理学は難しいです。私の解釈は多くの要約と異なるため、実際に本を読んで理解するのが確実です。良書なのでオススメですよ。
固有名詞

 通常、小説では固有名詞を避ける傾向があります。使用許可とか使用料などがあるらしいんですが、この本ではいくつも出てきて驚きました。感想ではありませんが、ひとつひとつ問い合わせたりしたのかなと想像しちゃいました。
物語の時代設定

 文章が簡潔で、物語の展開説明や心理描写以外が最小限だからこそ、現代に設定した無難さがいいなと思いました。小説家になろうで異世界物を見た後に読んだから比べちゃったんですけど、現在のお金事情を描いた物語なので無難というのは語弊です。でも、現代なら描写を省いても粗が目立たないし問題になりません。その分、表現をしないことになるので情緒や奥深さが感じられなくなるというデメリットはあるんですが、手軽に読みやすいという良さもあります。
なぜドラマ?

 なぜ作者がドラマを作りたかったように見えたのかというと、私が読んでいて、この物語はドラマや映画の表現が合うなと思ったからです。作家だから小説が好きなんだろうとは思いますけど、作者が本当にドラマを作りたかったのかは知りません。ただ、今年から本当にドラマになっていたのは納得しかなかったです。面白くて役に立つ、人気があるのがわかるくらい良い物語でした。
物語と小説の表現

 物語は起承転結の展開を基本としています。それは、「なぜ?」の理由が重要だからです。なぜ物語は始まったのか、なぜその結末になったのか、エピソードで見せることができると多くの共感を呼んで物語の完成度が高まります。私はライトノベルやネット小説ができてから面白い物語が増えたように感じました。
 一方で、マンガやアニメから物語を学ぶのか、小説の表現が軽んじられている最近の風潮には思うところがあります。小説は「どのように」という描写が最も重要です。たとえば、主人公が悲しんでいるときは雨が降ります。しかし、一口に雨といっても、いろいろな雨があります。土砂降り、霧雨、しとしと、パラパラ。同じように悲しいという感情もさまざまで、それを天気や景色の見え方などによって丁寧に描写された文章が私は好きなんですよね。もちろん、物語が面白いだけでも十分楽しいです。私が勝手に期待しては、描写があればもっと楽しくなるのにと落ち込んでいるだけです。

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