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【クリーチャーの恋人】2-5 全裸脱走

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 モナは「船」の中の薄暗いアーチ状の通路を進んでいた。

 そこは巨大な生物の体内のような場所だ。

 壁と床と天井のすべてが、筋肉や腱、膜、骨などの生体部品で構成されている。

 壁面は所々脈動し、瘤が浮き出しているところもある。

 通路を支える柱たちは、生き物の脊柱を思わせるような節くれがあり、時折わずかに身じろぎするように微動していた。

 壁面の一部から等間隔に突き出た拳大の器官からは柔らかな光が放たれ、船内を明るく照らしていた。

 天井は高く、モナが手を伸ばしても届かないだろう。

 蜘蛛に似た足の多い生物が列をなして足元や天井を歩き回り、何かを運んでいる。
 鉱石のような結晶、肉片、膜につつまれた液体、脈動する臓器などだ。

 モナが歩くと、蜘蛛たちは避けていった。

 やがてモナは広い円形の空間にたどり着いた。
 高い天井と広大な空間の中心には、淡く光る巨大な球体があった。
 床から筋肉の筋が伸びて、球体を掲げている。

 その球体は「船」の「心臓」だった。

 メーネは、船の心臓のすぐそばにいた。

 メーネは巨大なダンゴムシのような形状だった。
 全高五メートルを超えており、多数の腕を伸ばして心臓の修理をしている。

 メーネは床を這う小さな蜘蛛たちから「部品」を受け取ると、心臓の壁の一部分を開放して、内部の調整をしていた。

 モナは歩みを止め、メーネのせわしなく動く手足を見上げた。

『今回も指示通り、拠点の破壊に成功しました』
『よろしい。……そちらの原生生物の調査は? 進展はあったか』

 モナが口を開くと、真っ赤な舌が長く伸び、根元で外れて床に落ちた。
 それは変形して蛇のような姿になると、モナの足元から移動を始めた。

 蛇は這い進み、メーネの巨大なダンゴムシ状の外殻にぶつかると、どろりと溶けてその体に吸収されていった。
 その蛇にはモナがこれまでに柏木との生活の中で獲得した、とある情報が含まれていた。

『これはなんだ』
 メーネは機関室の中央にある核へ伸ばしていた複数の手を止めずに言った。

『たこ焼きを食べた時の、味覚の情報です』
 モナは新しい舌を生やしながら言った。
『明らかに、ソースよりもネギ塩ダレが良いと思われます』

『原生生物の栄養摂取の手段か』
『料理には実に豊富な種類があるようです。未だ全貌を把握できません』
『その必要はない』

『それでは、こちらはいかがですか』

 モナの眼球が転がり落ちた。
 眼球からは虫のような細い足がいくつも生えて、こそこそと歩き出し、メーネの体に向かった。
 モナの眼孔には、即座に新しい眼球が生成された。

『それには視覚情報を保存しています。映画というものです。人類はこのように、物語という媒介によって感情を共有しています』

 眼球型の虫はメーネの体にぶつかった。
 がしかし、今度は吸収されず、メーネの体の上を這い回ることになった。

『何が言いたい』
『人間は、人間の体そのものよりも、彼らが生み出すものに価値があります。我らには作り出しえないものです』
『我らが作り出さないのは、我らには必要のないものだからだ』

 メーネは複数の手のうちの一本で、眼球型の虫を弾いた。

『ですが――』
『原生生物の思考装置は非常に良い出来だ。すぐさま連結実験を行いたいところだが、船の修理が先決だ。それに、背信者のこともある』

 モナは弾き飛ばされた虫を目で追った。
 虫は機関室の隅で丸まって動かなくなっている。

『その後、背信者の情報はありますか』
『背信者の拠点の復元を開始している』
『自壊したはずでは?』
『前回の襲撃で、お前が制御器官を最速で破壊したことにより、自壊指令の届かなかった残骸が大規模に見つかった。これらを回収し、復元を進めている。完了すれば、この次元での背信者の残数、目的、経歴、すべて明らかになるだろう。
 ――船の修理と、背信者の撃滅。もはや時間の問題だ。ようやく本来の任務に移れる』

『侵略後、原生生物のサンプルを確保したく思います』
 モナは一歩前に出て言った。
『一定数の原生生物と、その生息領域を保存し――』

『保存の目的は?』
『彼らの生成物の保管です』

『それは、汚染の兆候だ。モナ。わかっているのか』
『私は第一世代。女王の忠実なしもべです』
『では任務を果たせ。合間に原生生物の調査を行うのは構わないが、あまり深入りするな。その後、例の特異個体との接触で外殻に異常は起きたか』
『観察中です』
『必要とあらば、ここで特異個体を解剖し、他の個体との差異を調査することも可能だ』
『必要ありません』

 メーネは頭部から伸びる触覚のような複数の感覚器を、モナの方へ向けた。

『分かっていると思うが、対象の精神状態を高精度に感知するユニットは、使用も製作も禁じられている。使用者の精神状態に異常をきたす恐れがあるからだ』
『心得ています』
『ならばよい。……背信者の他の拠点を発見し次第、また連絡する』

 モナはメーネに背を向け、歩き出した。

 あまり時間が無い。
 メーネは一刻も早く侵略を開始しようとしている。

 拠点の復元作業が完了すれば、モナは本来の任務に戻らなければならない。
 それまでに――。

 モナは自身の思考の異常性に気付いた。
 それまでに?
 それまでに、何をしなければならないのだろう。

 ユウから何を得なければならないのだろう。


 モナは複雑に折れ曲がり分岐する通路を進んだ。
 これといって特徴のない壁の前で立ち止まり、モナはそっと手を伸ばした。

 壁が縦に裂け、奥に隠し通路が現れた。
 モナは迷いなく歩を進めた。

 隠し通路の奥には、円筒形の部屋が広がっていた。
 空間の広さとしては、大きめの体育館ほどはあるだろう。

 ここはモナの部屋だった。
 だが、どちらかといえばミラルの部屋の意味合いが強い。

 モナは船外での活動が主であるため、ほとんど部屋にはいない。
 逆にミラルは、船内を自由に活動する許可を与えられておらず、できることといえばこの部屋のなかで変成の練習を続けるくらいだった。

 部屋の隅には無数の生き物が転がり、山のように積み上げられていた。

 羽をもつ「何か」。
 牙をもつ「何か」。
 鱗のある「何か」。
 金属質な「何か」。
 淡く光る「何か」。

 手と足が過剰に生えた「何か」がいれば、全身に歯が生えた「何か」もいた。
 大きさも様々で、人間の足ほどしかない芋虫のような「何か」がいれば、天井に届きそうなほど巨大な「何か」もあった。

 それらはミラルが適当に合成した分殻の残骸たち――柏木の言葉を借りるなら「キメラ」たちだった。

 全く無秩序で、混沌としていて、まるで妄想のゴミ箱の中身がぶちまけられたようだった。

 キメラたちは生きていたが、目的が無かった。
 自己の生命を維持しようという意思すらない。
 ただ生きているだけ。
 死んでいないだけだった。

 モナはキメラの山に目を向けながら、部屋の中央へ向かった。

 部屋の中央には、植物のつぼみのような塊がある。
 高さは2メートルほどで、筋繊維によって床と接続していた。
 肉で出来た分厚い花弁が何枚も重なっていて、花開く時を待っているようだった。

 モナが近づくと、花弁はひとりでに開き始めた。
 モナは外殻を脱ぎ、内殻の姿になって宙を漂い、花弁の中へと入っていった。

 花弁がゆっくりと閉じていく。
 内部が特殊な液体で満たされ、モナの内殻の体が液体に浸かっていく。

 これは「治療器官」と呼ばれる装置だった。
 本来は内殻の治療に用いるものだが、今は精密検査のために用いていた。

 治療器で精密検査するよう指示を出したのはメーネだった。

 モナは柏木に会った最初の夜以来、こうして定期的に治療器官を用い、自身の状態をチェックしていた。

 だが得られるのはいつも同じ、「異常なし」という結果だけだった。
 今回も変わらないだろう。
 モナは期待しておらず、義務感で動いていた。
 気にしているのはメーネだけだ。

 こんなもので汚染の兆候を見抜くことができるなら、背信者との戦いなど起きなかったはずだ。

 背信者が発生する原因は、分かっていない。

 他次元の原生生物との交流が有ろうとなかろうと関係が無いし、また、ガリオンの世代も関係がない。

 確かに、背信者になったガリオンの多くは第二世代以降だったが、第一世代に全くいなかったわけではないのだ。

 そう、「メイリア」のように。

 モナは思考を打ち切り、静かに液体の中を漂うことにした。

 治療器官に入っている自分の様子を見て、「まるで水槽の中のクラゲのようだ」とモナは思った。
 だが、共感してくれるであろう柏木は傍には居ない。

 モナは何かを紛らわせるように細い触手を動かした。
 

――――――・――――――・――――――


 時計の針はもうすぐ22時を示そうとしており、柔らかな月の光が静まり返った街を照らしている。

 アパートの自室で、クラゲと名付けたゴールデンレトリバーを見下ろし、柏木は焼きおにぎりを食べていた。
 マルス像が作ってくれた夜食だ。
 意外においしくて驚いた。


 最近、異様に食欲がある。
 胃が倍になったような気分だった。
 久保塚との夕飯の時も、大盛ラーメンと大盛チャーハンと餃子を食べ、最後にもう一枚餃子を頼んだ。

 夕食時、久保塚は目を丸くしていた。
「そんなに精力が必要なのか」と羨望のまなざしを向けられたので、強く否定しておいた。


「クラゲって、飯食わなくても平気なのかな」
 柏木は焼きおにぎりを食べ切って、ミラルに言った。

 ミラルは部屋の隅でテレビを見ながらキメラをいじっている。
「我々と同じです。その分殻も、体内に貯蔵庫を搭載しています。……いつまでやるんですか? 普段ならもう寝ている時間ですよ」

「うるさいなぁ、お前は俺のお袋かよ」
「母親ではありません」
「知ってるよ」柏木はうんざりして言った。

「ユウは質問に答えていません。いつまでやるんですか」
「もうちょっとだけ!」柏木は子供のように答えた。


 モナはまだ帰ってきていない。

 柏木は、「朝までにクラゲを完璧に変化させられるようになっていればモナも驚くに違いない」と奮起していた。
 そうして久保塚との夕食後、家に帰ってきて再開した「練習」だったが、どうにもモナを驚かせるのは難しそうだった。

 クラゲが柏木の思った通りに変形したことは無かった。

 それどころか、クラゲは時折自分から動き回るようになっていた。
 ミラルにちょっかいを出したり、ベッドに飛び乗ったり、自分がクラゲとして生まれたことを忘れられないのかたまに宙に浮かんだりしていた。
 柏木はクラゲが空を飛ぶたびに、足を掴んで床に引きずり下ろしていた。


 ミラルは前足を舐めながら言った。
「先ほどの会話ですが、やっぱりわかりません。どうしてユウは空手を習っていたんですか?」

「だから、小さいころにはそういう習い事をするものなんだってば。人間っていうのは。それに護身にもなるだろ。例えば悪漢に襲われたときとか」
「あっかん?」
「悪い人間のこと」
「人間の良い悪いはどう判断するんですか?」
「人をいきなり殴ったりするやつは悪い奴」
「では『今から殴ります』と宣言してから殴れば良い人間ですか」
「人を殴ってはいけません」
「格闘技は人を害する技術ですよね。ユウは悪い人間ですか?」

 柏木はため息をついた。
「なぁ、もういいだろ? お前の質問に答え続けていたら、朝になっちゃうよ」

 ミラルはモナより質問好きのようで、柏木はうんざりしていた。

「確かに、私が質問してばかりでした。これでは会話ではありませんね。それでは次はそちらの質問を受け付けます。私に何か聞きたいことはありませんか?」

 入社の面接か。

 柏木は大きく伸びをして、気分転換に質問を考えた。
 一番聞きたいのは侵略開始の時期だが、馬鹿正直に「ねえねえ、いつ人類への侵略を始めるの?」とは聞けない。

「そうだ、友達はいないのか?」
「ユウ自身が私の友人に相当すると言っていましたが」
「あー、俺以外で」
「友達というのは、ガリオンの友達ですか?」

 柏木は頷いた。

「ガリオンに友人の概念はありません」
「じゃあ友人じゃなくていい。親しいやつ。仕事仲間でもいいし、モナのほかに交流のあったガリオンは?」
「ありません。私は生まれてからずっと、モナの部屋の中で過ごしていました」
「……ガリオンっていうのは、そういうもんなの?」
「一般的ではありませんが、仕方のないことです。私は大戦後に生まれた第二世代ですから」
「わかるように言ってくれる?」

「独自の思想に目覚めた者たちを、背信者といいます。背信者たちは徒党を組み、女王に反旗を翻しました。『大戦』と呼ばれる大規模な内戦です。
 彼らの反乱はやがて鎮圧されましたが、背信者たちには、一定の傾向がありました。背信者となったのは、すべて第二世代以降のガリオンだったのです」

「女王から直接生まれてないやつらが、一斉に裏切ったってこと?」
「そうです。大戦以後、第二世代以降のガリオンは、誕生後即座に素材化されるようになりました」
「……素材化?」
「自己因子を抜かれ、意識の無い素体へと――」
「わかるように言って」

「端的に言えば処刑です。私は本来、生まれた直後に死ぬはずでした。モナが庇わなかったら、こうしてここに存在していません」

 柏木はガリオンの強烈な社会性に面食らった。
 だがそれよりも、自分が死ぬ予定だったことを淡々と話すミラルに驚いた。

 ミラルは自分の命を何とも思っていないのだ。

「……なんて言ったらいいか」柏木は自分の顎に触れた。

「次の質問はなんです?」
「そっちの質問でいいよ」
「追いかけなくていいんですか?」
「何を」

 柏木は部屋の中を見回した。
 クラゲがどこにもいない。 

 見れば、玄関のドアが開いていた。

「うそだろ?」
「嘘じゃないです。クラゲは少し前に出ていきました」

「なんで言わなかった!」柏木は立ち上がり、玄関に向かった。

 慌ててサンダルを履いて、外に飛び出す。
 アパートの階段を下りて、住宅地の街灯に照らされてとぼとぼと歩いていくゴールデンレトリバーの背が見えた。

「おい! 待て!」

 クラゲは柏木の声に反応して振り返ったが、すぐに前を向いて再び歩きだした。

 柏木は慌てて追いかけた。
 後ろからミラルが走ってついてくる。 

 柏木はアパートの階段を二段飛ばしで駆け下りた。
 クラゲの背に追いついた、と思ったら、クラゲは突然走り出してしまった。

「あいつ何で逃げるんだ!」
「……モナは柏木の言うことを聞くよう、クラゲを設計しました。そして柏木は、外見で判断してクラゲを犬だと思っています。
 『犬は飼い主から走って逃げるもの』だと、柏木は深層心理で思っているのではありませんか? クラゲはそれを反映している可能性があります」

 クラゲは本気で走っていなかった。
 もしそうならとっくに姿が見えなくなくなっているはずだ。
 犬の脚力に、人間がかなうわけない。

 じゃれているだけのつもりなのかもしれない。
 クラゲは先ほどからちらちらとこちらを見ている。
 あるいは、ミラルの言を信じるなら、「犬はじゃれるもの」という柏木の思考を再現しているのか。

 柏木はなんとか追いすがると、その背中にわずかに指先が届いた。

 クラゲが立ち止まり、変形を始めた。
 全身から体毛が無くなっていき、肌色の面積が増えていく。
 手と足はみるみる伸びていった。

「うっわ!」
 柏木はとんでもないものを前にして、硬直した。

 現れたのは、裸の柏木雄一郎だった。
 頭部からつま先まで、完全に再現されている。

 クラゲは柏木が凍り付いた隙を見逃さず、柏木の姿のまま二足歩行で走り出した。

「まっ、待て!」

 柏木は青い顔で必死に追いかけた。
 アパートを飛び出すとき、多少時間を使ってもスニーカーを履くんだったと後悔した。
 サンダルでは走りにくくてたまらない。

「ありゃなんだよ! くそったれ!」
「裸です。ユウの」
「見りゃわかんだよ! 勘弁してくれ!」
「あれにはユウの因子が入っています。ユウの命令、意思通り動くはずですよ」

「とっ止まれっ!」

 裸の柏木は動きを止め、こちらを見た。
 そしてまた背を向けて走り出した。

「ダメじゃん!」

 柏木はダッシュで一気に距離を詰め、自分の背中にタックルした。

 住宅地の真ん中で、二人の男がもんどりうって転がっていた。
 片方は裸であり、はたから見れば大事件だった。

「やっぱりだめでしたね」
 ミラルは塀の上に上り、二人の柏木を見下ろしていた。

 柏木は、裸の自分が手足をばたつかせて暴れるのをなんとか抑え込んでいた。
 手と足をめちゃくちゃに動かし、舌をだらりと伸ばし涎をたらして首を振りまくるその様子は、末期の薬物中毒者そのものであった。

「止めるのを手伝ってくれ!」

「今は分殻を操作する練習中でしたよね。自力で解決すれば技術力が向上しますよ」
「そんな悠長なこと!」
「まずは、それが自分の手足だと思うんです」

 手足だって?
 こいつには手足どころか頭も胴体もついているんだぞ。

「手足というのは、例えです」
「分かってる! いいから先に犬に戻してくれ! 誰かに見られる!」
「尻尾を引っ張ればリセットするはずですよ」
「今は人の形だ! 尻尾が無くなってる!」

「……おお、これは設計ミスですね」
 ミラルは驚いたような、それでいてどこか嬉しそうな声で言った。
「初めて知りました。モナでも失敗をするんですね。新鮮な気分です」

 柏木はばたつく自分を何とか押さえつけた。
 このまま騒いでいたら、近くの住宅から人が出てきてしまう。

 くそったれの黒猫は役に立たない。

 成人した男の裸に抱き着いているという事実から必死で目を背ける。
 自分に負けてたまるか! と柏木はなんとかやる気を奮い立たせた。

 言うことを聞かなくていいから、とにかく隠せる大きさになってほしかった。
 このままでは新聞に載ってしまう。

 祈りが通じたのか、はたまた何らかの能力に覚醒したのかは分からない。
 裸の柏木はしゅるしゅると音をたてて小さくなっていった。

 毛深くなり、手足が短くなっていく。

 やがて暴れなくなり、柏木は慎重にクラゲから体を離した。

 大人しくなったクラゲは、確かに大型犬に戻っていた。

 ――頭部を除いて。

 正統派の「人面犬」が誕生した瞬間である。

「これは……」
「不完全です」ミラルは頷いた。「元に戻っていません」
「見りゃわかるよ」

 ゴールデンレトリバーの胴体に、人間の頭部が乗っている。
 しかも自分の頭だ。
 柏木面犬は、不機嫌な顔でこちらを見上げている。

「でも尻尾は生えた」

 柏木はクラゲの尾を引っ張った。
 人面犬は無事に元のレトリバーに戻った。

 柏木は住宅地に響き渡るようなため息をついた。


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