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ホルモン、たこ焼き、コーンバター

ここのところ仕事が忙しくて、文章を書く気持ちにならなかった。
先日やっと、重めの仕事が一つ終わったので、書いてみようと思う。
とはいえ、特に書くネタがなくて筆が止まる。
仕方ないので、最近行った大阪出張のことを書いてみることにした。

久しぶりの大阪出張だった。
基本的に裏方業務なので、東京にこもって仕事することが多いから、出張となるたび毎度ドキドキする。
何と言っても新幹線だ。
これは完全に北海道育ちのせいだけど、新幹線というものに縁がない。
どこに行くにもまずは海を越えないといけないから、必然的に飛行機もしくはフェリーになる(今は新幹線も一応あるけれど)。
なので、上京するまで新幹線に乗った経験は記憶になく、初めて乗った時は、「なごや〜」とか「きょうと〜」とか、陸続きでどんどんコマを進めていくのが、ゲームみたいで何とも現実味がなかった。
未だにこんな時速で走って、いつか地上に落ちるんじゃないかと不安になるから、新幹線は緊張する。

そんな私の心配をよそに、無事のぞみは新大阪に到着。
新幹線の車内で軽い朝ごパンだけ食べて、ちょうど昼前に大阪に着くようにしたので、腹時計はいい感じに空いている。
バックパックを背負って、「よっしゃあ大阪!」とホームを出た。
東京も、ここは迷宮かと思わせてくるほど、広くて分かりにくい駅は沢山あるけれど、大阪という駅も部外者にとっては本当に意味不明だ。
地下が広すぎて、無限アンダーグラウンド。
なので、「まずはルクアに行く、ルクアに行けばどうにかなる」がマイルール。
ということで、今回も意気揚々とルクアに向かおうとしたのだけど、どれだけ歩いてもルクアがない。
なぜルクアがないのか、唯一の頼みの綱なのに……
これ以上、一人でどれだけ頑張っても、ルクアが現れそうにないので、外国人観光客に囲まれている駅員さんに聞きにいこうかと思った時、ふと気が付いた。
ここは大阪じゃない。
新大阪だ。

非常に初歩的なミスである。
忙しくて疲れていたのか、気を抜いていたのか、よく分からないけど、やっと現状が理解できたので、そそくさとJRのホームに戻って電車に乗る。
本物の「大阪」に着いて、見覚えのあるホームを抜けると、探し求めたルクアがあった。
よかった、あったよ、私のルクア。

お昼ごはんは行く前から決めていた。
王道のたこ焼きもいいけれど、それは夜に取っておいて、ここのところずっと食べたかったホルモン焼きを食べようと意気込んでいたのだ。
全く大阪とは無関係で博多が発祥のお店だけれど、ホルモン欲が満たされるのであれば何ら問題はない。
ホワイティうめだというこれまた地下街にあるとのことだったので、安心のルクアを離れ、案内板を頼りにホワイティに向かう。

「ホワイティ」と書いてあるところまでは割とスムーズに行けたけれど、そこからが長かった。
ホワイティもやはり迷宮。
広くて広くて広い。
構造を理解しないまま来てしまったので、見事私が行きたかったホルモン屋は正反対くらい離れた位置にあるらしく、ここからは暑さからくる汗と空腹からくる冷や汗のせめぎ合い。
何分歩いたかは分からないけれど、早速大阪の手強さに面食らった。

やっとの思いでお目当てのお店を見つけたものの、店内はワイシャツメガネのサラリーマンばかりで焦る。
Tシャツ、どでかバックパックの20代女子が一人で乗り込んで良い場所なのだろうか。
入るか迷っている時に、店内にいる女性のスタッフさんと目があった。
彼女も、「え、お姉さん、うちですか…?」みたいな表情していた。
でもここまで来て食べないわけにはいかないし、柔軟な代案など持ち合わせていない。
入らない選択肢はないので勇気を持って入店した。

いざ入ると、ホールは女性のスタッフさん2人だったので、そんなに居心地は悪くなかった。
食べたかったホルモン定食を注文し、料理を待つ。
スタッフさんの1人が「やばい、保育園から電話かかってきた。最悪や〜」と割と大きめの声で嘆く。
もう一人のお姉さんが「しゃあないやん。うちも今日だるいわ〜」と言っていて、あっけらかんとした会話と声の勢いに、やっぱり大阪だなあと感じた。
基本的に、東京より人が元気だ。

その後届いたホルモン定食は、想像以上にちゃんと美味しくて、シンプルだけど臭みもなく、これが食べたかったんだよ〜というど真ん中を撃ち抜いてくれた。
ばっちりスタミナチャージしたので、ここからは本業に戻らねば。
9月というのに大阪は暑くて、またダラダラと汗を流しながらオフィスに向かう。
本番が迫って緊張感と高揚感が詰まったオフィスで、夜までしっかり働いた。

翌日の仕事も朝が早いので、飲みに行くのは早々に諦めていた。
せめてもの抵抗で、宿泊するアパホテルの目の前にあるたこ焼き屋さんでたこ焼きとお好み焼きをテイクアウトした。
たこ焼き6個、イカ入りのお好み焼き1枚で900円。
1人にしては多いけど、どっちも食べたいし、たこ焼きだけだと量が少ない気がしたので仕方ない。
そもそも、たこ焼きの1人前って何個が適切なのか、永遠の謎。
私的、「適量が分からない」ものベスト3は、「ミスド、タコス、たこ焼き」だ。
元々たこ焼き文化がない土地から上京しているので、偉そうなことは言えないが、東京のたこ焼きは油で揚げたような食感で、1個食べると結構重い。
それに対して大阪のたこ焼きは、箸で持ち上げると重力でたるんじゃうくらい、たぷたぷとろとろで飲むように食べられる。
この日買ったたこ焼きも、ちゃんと大阪式で美味しかった。
作り置いていたものだから、出来立ての味からは少し落ちるけれど、熱が落ち着いたたこ焼きをちまちま食べながら、缶ビールで1人テレビを見る大阪の夜も、そんなに悪いもんじゃないなと思った。

翌日は8時に会場入りだったけど、会場までの道が不安すぎてだいぶ余裕を持ってホテルをチェックアウトした。
誰もいないお初天神の飲み屋街を歩きながら、急に自分が今ここにいることが不思議になる。
地方で育って、特別なことができるわけでもないのに勢いで上京して、それでも雇ってくれる会社があって、どうにか暮らすことができている。
たまにはこうして、東京を離れた場所でも仕事をしている。
いつの間に自分がこんな術を覚えたのか分からないけれど、今当たり前になってしまっている色々なことが、結構奇跡的にも思える。
なんだかんだ、頑張ってるじゃんと自分を少しだけ褒めて、本日の舞台に入った。

長い戦いだったので、仕事が終わって外に出た時にはもう19時だった。
ずっと立ち仕事だったから、足はもう小鹿のように震えていたし、一刻も早く帰ろうと新幹線に飛び乗った。
帰りの新幹線もやはり緊張して、「なんか、やたら揺れてない?」とか勝手に不安がり、心配しているうちに東京に着いた。

家に帰ると、疲労と安心感がどっと体に押し寄せる。
新幹線でおにぎりは1個食べたけど、さすがにお腹が空いて、ストックしていた小さいサイズの札幌塩らーめんを用意した。
用意するといっても、お湯を注ぐだけである。
3分間の辛抱で、ラーメンが食べられる幸せ。
ミニサイズなのに具材もちゃんと入っていて、疲れた体に塩分が染みる。
ラーメンを食べ切ってお腹も満たされたから、早く眠ろうと思ったけれど、1日中緊張していたからか、眠気がこなくて、ダラダラとYou Tubeを見ていた。

そのうち余計に目が冴えてしまって、またもやお腹が空いてきた。
ものすごく、甘いものが食べたい。
でも残念ながら、我が家の冷蔵庫には今、チーズトースト用のスライスチーズと、この前上司からお土産でもらったマスタードしかない。
お菓子箱に入れていたスナックは、出張前に食べ切った。
もう一度パジャマから着替えて、コンビニに行く元気はないし、諦めて眠ろうとお布団に入ったのだけど、一向に眠れない。お腹が空いた。

仕方なく、もう一度冷蔵庫を漁る。
漁るというか、ほぼ物が入っていないので、見えているものが全て。
やはり何もない。
アイスなんてあるわけないよなと思いながら冷凍庫を開けてみる。
当然ない。
一人暮らしなので、自分で買わない限り、あるわけはないのだけど。
本望ではないけれど、唯一残っているスライスチーズを食べて眠ろうかと諦めた瞬間、冷凍庫の隅に怪しいジップロックを見つけた。
何だっけと恐る恐る開けてみると、それはとうもろこしだった。
夏の間、実家から届いたとうもろこし。
大好物で、毎年送ってくれるのはとても有難いのだけど、1人だとどうしても量が多くて、とりあえず冷凍しようと保管していたのだ。
1ヶ月近く経っているから、どうかなと思いつつ、今の私が欲している糖分を満たすには、一番適していると思ったので、ひとまずレンチンしてみた。
そのまま食べると、冷凍焼けの匂いがしそうだったから、バター醤油で炒めてみる。
料理は苦手だけど、バターが美味しいので大丈夫。
バターがどうにかしてくれる。

そんな祈りと共に出来上がった、コーンバター。
時間も遅いからちょっとだけ食べようと、デザート用の小さいスプーンで掬って食べた。
なんと、美味しいじゃないか。
フレッシュな時の、弾けるような粒感はないけれど、ジュワッと甘くて、バターの塩気と抜群に合う。
ああ、こういうのが食べたかったんだと思いながら、ちびちび掬って食べていたら、気付けばとうもろこし1本分が消えていた。
まあ、疲れた日の糖分は、消費したエネルギーをチャージするために使われるので、カロリーゼロということで帳消し。
無事眠りにつくことができた。

ここまで書いて、締めに困る。オチがない。
せっかく大阪に行ったのに、笑いのエッセンスは全く吸収しないまま、帰ってきてしまった。
でもなんか、今はこうして文章を書けるくらいに、自分の生活が戻ってきたことが嬉しい。
またすぐに忙しくなってしまうけど、仕事が途切れないのは有難いことだ。
本当は忙しい時ほど、ちゃんと自分のペースを大事にしなきゃと思うのに、結局いつも全力投球、余裕のないまま、慣れない犬かきで突き進もうとしてしまう。
特に面白くも何ともない締めだけど、今はこの文章を書けることが幸せ。
だからこのまま終わろうと思う。
これは私のための文章だ。

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