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『三国志』  少年を虜にする歴史大作

【読書日記】 経済学者 安田洋祐 ①

 僕の読書歴には、ぽっかりと空白期間がある。中高一貫校に通っている間、高校受験が無いのを良いことに、大好きなサッカーとTVゲームに明け暮れていた。当時は教科書すらまともに目を通さず、読むと言えばマンガくらい。今や一番の趣味となった本からは、完全に遠ざかっていた。

 ちょっぴり堕落した中高時代を送る前、小学生の頃はかなりの読書家だったと思う。当時通っていた塾指定の課題図書を毎月欠かさず読んだし、趣味で伝記などをたくさん集めた。といっても、こうした本の大半は児童書で、親が読むような大人の本へのハードルはなかなか高い。比較的読みやすい短編やSFなどからスタートし、背伸びしな がら一歩ずつ大人の階段をのぼっていった。

 そんな読書見習い期間中の僕が、意を決して臨んだ初めての長編が吉川英治の『三国志』(講談社文庫など)。父から勧められたこの大作は、小学生には少し難しかったけれど、もともと戦国時代モノの大ファンだった少年の心を瞬く間に捉えた。ただ困ったことに、感動を伝えたいものの同級生では話し相手が見つからない。結局、担任の先生に強引に本を貸して読んでもらい、ストーリーや感想を語り合うことに。(お付き合い頂いた先生に改めて感謝!) 全巻を読み終えた時のあの達成感は、今でも忘れられない。

日本経済新聞(2014年8月6日・夕刊)より

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