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後輩たちへのメッセージ

本日発行された母校の筑波大学附属駒場中・高等学校の会報(駒場会報187号)の年間特集「新時代を切り開く〜未来への羅針盤〜」というコーナーに記事を寄稿しました。以下に転載しますので、ご関心のある方がいらっしゃいましたら、眺めて頂けると嬉しいです。

挑戦する筑駒生 そっと支える親が鍵


人生は一度きりのゲーム

筑駒での中高時代は、勉強そっちのけでゲームとサッカーに明け暮れていました。とくに対戦型の格闘ゲームが大好きで、学校帰りにゲームセンターに寄り道することもしばしば。現実のスポーツと同じように、駆け引きや読み合いの要素があることに惹かれていたのだと思います。こうした人対人の駆け引きの経験が、現在の専門である「ゲーム理論」研究にも(ちょっぴり)役立っているので、人生って不思議ですよね。

ゲームはもちろん家でもプレイしましたが、ゲームソフトは中高生にとって高価です。そこで、遊び終わったゲームソフトを売って、中古のゲームソフトを買うことに。同じソフトでも、地域によって、あるいは店によって買取り価格も販売価格も異なります。電車通学や塾通いの利点を生かして、いろいろな店の価格を調査し、できるだけ安く購入して高く買い取ってもらう。僕の経済学者としての素養や問題意識は、この「擬似商人」の実体験で育まれたのかもしれません(笑)

大切なことは全部サッカー部で学んだ
部活動は、中1から高3での引退までずっとサッカー部に所属していました。スポーツの練習では、時間や回数などの量に注目しがちですが、顧問の小澤治夫先生の指導は正反対。いつも「間違ったことを100回繰り返せば、間違ったことしかできなくなる。10回でいいから正しいことをやりなさい」と僕たちに語りかけ、練習の質と基本スキルを重んじていました。

まずは基本をマスターして、それから自分らしさを出していくというのは、スポーツだけでなく学問や仕事にも通じる王道アプローチで、「守破離(しゅはり)」と呼ばれています。敏感な筑駒生の皆さんは、社会の抱える様々な問題に気付きやすい。ネットや図書館で調べてみると、それを「一気に解決できる」かのような過激な言説や本がどんどん見つかる。結果的に、(専門家から見ると)トンデモな議論にハマってしまう危険性も実は高いのです。遠回りに感じても、「正しいことを10回」の精神で、まずは標準的な考え方をきちんと吸収することを心がけて欲しいです。

小澤先生からは、組み合わせる発想の大切さも教わりました。高校生になって1500m走で5分を切ったとき、次の目標を聞かれ「4分半」と答えたところ、「次は1500mではなくて、100m走で11秒台を目指しなさい」とたしなめられたのです。陸上部でもないのに、中距離走ばかり速くなってもしょうがない。でも、中距離も短距離もどっちも速いサッカー選手なら大きな武器になる、という意味でした。

3つの分野を組み合わせる
どんな分野でも、正しいやり方で努力し続ければ、トップ10%に入るのはそれほど難しくはありません。でも、トップ1%に入るのは相当大変ですし、トップ0.1%なら、努力だけではなく運も必要です。「ナンバーワン」になるためには、非常に高いハードルを超えなくてはいけません。ここで、トップ10%に入る分野を3つ組み合わせだらどうでしょうか。それだけで1000人の1人(1/10×1/10×1/10=1/1000)の「オンリーワン」人材になることができます。

このように分野を組み合わせるという発想が、日本人には乏しいように思います。例えば日本のメーカーは、細分化された特定部品のスペックを世界一の水準にまで持っていく、といった職人的な技術・作業には長けています。一方で、既存分野の組み合わせによって新しいモノやアイデアを生み出すのは苦手。消費者の心を掴む革新的な商品やサービスに恵まれず、この10〜20年ほど低迷が続いているのはご存知の通りです。

僕自身も、経済学者でありながら研究室にこもりっぱなしではなく、メディアに出演して経済学の知識を分かりやすく広めたり、政策提言にも関わったりしています。どの分野で勝負をするか、どのスキルを組み合わせるかを考え続けるだけで、成長の伸び代が大きくなる。さらに、複数のスキルを身に付けておけば、一芸に特化して極めたスキルが陳腐化してしまい、ニッチもサッチも行かなくなるリスクからも解放されます。将来の不確実性が高まっている中、「組み合わせ」思考の有効性はますます高まっていくと思います。

おそらく、小澤先生はそこまで考えて僕に話したわけではないでしょう。ただ、駒場の先生たちの何気ない一言が(聞き方次第では)金言へと変わり、みなさんの今後の人生を大きく変えるかもしれません。というわけで、先生の話をちゃんと聞いておくと、きっとご利益もありますよ(笑)

最後に保護者の皆さんに
子どもたちが熱中できるものをぜひサポートして欲しいです。「やっても意味がない」「将来、何の役に立つの?」「そんなに上手くないじゃない」といった、やる気を削ぐワードは禁句!遊びでも留学でも起業でも、子供が興味を持ったものであれば、なんでもやらせてみるのが良いと思います。

「ウチの子は将来設計が全くできていない」といった(ありがちな?)心配も一切無用です。筑駒生たちは伸びしろの塊ですし、大学生になってもまだまだ成長します。中高時代に自分から興味を持って挑戦する・学ぶ経験さえ積んでおけば、あとはその次のステップに進む後押しをそっとするだけで、子どもは自分で成長していきます。強制するのではなく、お子さんの好奇心を満たせる環境を、できる範囲で提供してあげて下さい。

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