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【邦画新作】『コーヒーはホワイトで』ネタバレありレビューーーそんなトリックがまかり通るならば全てのミステリ作家は廃業せねばなるまい


監督:山本英/脚本:岡山一尋
配給:AMGエンタテインメント/上映時間:100分/公開:2024年2月16日
出演:加藤小夏、好井まさお、生島勇輝、小野真弓、大村彩子、桃月なしこ、石田千穂、和田崇太郎、奥貫薫、川崎麻世

昔ながらの純喫茶(って公式にはあるけど、どちらかというと最近のオシャレカフェっぽい)「モア」には、探偵事務所というもうひとつの顔があった。探偵に依頼したい人は「コーヒー、ホワイトで」と注文する決まりだ。実は優秀な探偵であるアルバイト店員・モナコ(演:加藤小夏)は、依頼を承ったら、助手の由美彦(演:好井まさお)とともに調査を開始する。探偵モノが低予算邦画の定番なのは、フォーマットが確立していて作りやすいからだろう。

先に言うと、いつも通りの低予算邦画のクオリティなのだが、なぜか妙に惹かれてしまった。その理由のほぼ全ては、主演の加藤小夏にある。と言っても、別に特段演技が上手いわけではない。ただ、このタイプの邦画の主演って、(ボクにとっては)よく知らないアイドルグループの、その中でもトップではなさそうなメンバーが割り当てられることが多い(男女問わず)。それは単なるファンムービーであり、ちゃんと「君のこともプロモーションしているよ」というアリバイ作りに映画が利用されているかのような、本末転倒な事態にもなっている。

加藤小夏は、写真集も出しているらしいが、基本ずっと役者業でやってきている人のようだ。そのためアイドル的な華やかさは皆無で、小さくて切れ長の目が媚びとは真逆の強い印象を残すが、それが役者としては魅力に繋がっている。本作のキービジュアルが、顔色が悪くシワやクマもはっきりわかるほどの異様な顔写真だったため、照明が仕事していないのかと嫌な予感がしていたが、劇中の照明はちゃんとしていた。であれば、あの目の下のくすみは狙いなのであろう。

助手役の好井まさお(最近ピンになった芸人)は、鼻の横の大きなホクロを含め漫画的なひ弱な男を全身で体現している。それだけでもポイントが高いが、女好きでありながらモナコには主従関係を徹底することで、さらに加藤小夏からアイドル要素(言い換えれば「擬似的な恋愛対象としての要素」)を剥ぎ取っている。そういった諸々の理由により、加藤小夏には作品の中央で核として構えているような安定感が出ているのである。見た目に寄らず武術が堪能というありがちなキャラ設定も、今回は割とプラスに働いているし。

とまあ、ほぼ役者によって救われている本作だが、やはり話はめちゃくちゃであった。探偵モノにするのなら、せめて話の辻褄には頭を使って欲しいのだけれど、それは無理なお願いなのだろうか。まずイントロダクションとして、小野真弓(久しぶりに見たなあ)演じるキャバクラのオーナーから依頼が来る。新人で雇った娘が高校生だったと発覚し、そのことを知った闇金業の男から「言うことを聞かないと警察にタレこむぞ」と脅迫されているのだ。しょっちゅう店に来て遊んでは1000円しか払わないので「千円男」と呼ばれているその男を、モナコの知恵で懲らしめる。

で、エレベーターで階数をごまかして別の店に誘導する手口はまあまあ良かったが、「娘が実際は高校生ではなかった」(千円男とグルで狂言をしていた)のを見破るのに、イヤリングのデザインが麻雀牌だったからってのはどうなんだ。セリフでも「麻雀好きな高校生もいるだろうけど」とフォローは入るが、いくらなんでも「高校生じゃない」と見破るきっかけとして弱くないか。Mリーグがこんなにブームなのに。

さて、メインの話は、大手菓子メーカーに勤める女性・坂井優奈からの依頼。夜中、犬の散歩をしていたら急に襲われたという。ただし、襲われたのは自分ではなく犬で、犯人は犬に手を噛み付かれ逃げていったので助かった。さっそく犬が襲われた現場に行ってみると、犬のキーホルダーが落ちていた。優奈の会社で販売している菓子のオマケだという。なるほど、これは優奈の会社の人間が怪しい、このキーホルダーを扱っている部署はどこだと聞き出して、社員証を偽造(すげえな)して会社に忍び込むモナコと由美彦。

注意:このあと終盤の展開に触れていますので、未見の方はネタバレにご注意ください。ネタバレしたところでたいした問題でもない気もしますが。



びっくりすることを言うね。この犬のキーホルダーって、社内で検討段階の非売品とかじゃなくて、普通に店で販売している菓子のオマケだからね。誰が持っていてもおかしくないからね。なんでこれだけで「犯人は社内の人間だ!」って判断できるのか。モナコ、さっきの麻雀牌もそうだが、少ない情報からの決めつけが強い。思考回路が名探偵ではなく、その横で見当違いの推理をする刑事みたいである。加藤武か。

優奈の同僚で最近の挙動が怪しい川添研二に狙いをつけたモナコ。パスワードを解かせたところで奪い取るという力技で、川添のスマホをチェック。借金が200万円ある川添は夜中にフードデリバリーのバイトをしていることがわかった(しかし大手菓子メーカーの正社員が200万円を返済できないほど日本は不景気なのか?)。さらに調査を進めると、優奈の「うちの犬かわいいでしょ」アピールでノイローゼ気味になっていたと発覚。そのためバイト中に犬の散歩をしている優奈を見つけ、ついつい犬に襲いかかったのである。そして、その様子が全て自転車に取り付けていたドラレコに記録されていた。

気になる点は多いけど、いちいちツッコミを入れていたら終わりが見えないので先に進みます。実は本件と並行して、近所では3件続いている連続通り魔事件が発生していた。その現場がいずれも優奈の犬の散歩コース沿いで、謎は深まる。さらに、川添が急に会社を無断欠勤し、連絡が取れなくなった。モナコは通り魔事件の現場に赴き、人通りが多く近所のアパートの窓からも丸見えの場所で日中に人が殺されているのに目撃情報が無いなんてと訝しむ。しかも、3人目だけは人通りの少ない場所で夜中だし殺し方も他の2人とは違うのも不可解だ。

そんな折、モナコには次の依頼が入る。依頼人は、最初に出てきたキャバクラのキャストである紗里(あまりに偶然がすぎる再会のシーンがあるのだが、省略します)。夫からのDV被害で逃げていた紫衣という女性と知り合ったのだが、連絡が取れなくなったという。紫衣は、DV相談をしていた男性と不倫関係になっていたことが夫にばれたため、漫画喫茶やファミレスなどを転々として身を隠し、今はどこかのウィークリーマンションに住んでいると、紗里は聞いている。

「漫画喫茶やファミレスといえば学生がよく利用するところだ」「あ、たしかに近所の高校出身でした」「じゃあ、あなたの得意のSNS検索で調べて」「ウィークリーマンションの部屋から出てくる目撃情報を見つけました」という意味不明な調査によって紫衣の住んでいる部屋が判明。モナコ、由美彦、紗里はウィークリーマンションまで行き部屋に突入(ちなみに、モナコはどんな鍵でも瞬時に開けられる)するが、何者かにスタンガンで意識を失わされる。

モナコと由美彦はその場に縛って放置して、紗里を連れ去った犯人。なんやかんやで縄を解いて(手しか縛らないから簡単に解かれるのだよ)、こっそり取り付けていたGPSを頼りに居場所に向かうと、そこには縛られている紗里と紫衣、そして紫衣のDV夫である亀山がいた。亀山というのは、優奈と川添の上司である。そして、亀山こそが連続通り魔殺人事件の犯人だと看過するモナコ。へ?

3人目の被害者は、なんと紫衣と不倫関係にあった男だった。亀山は、自分が怪しまれないように、まず無関係な2人を殺して、全て通り魔の犯行のように見せかけていたのだ。最初の遺体はすぐに発見される必要があったので、人通りの多いところで犯行に及んで放置していたのである。では、なぜ犯行が目撃されなかったのかというと、フードデリバリーの配達員の格好をしていたので、誰からも気に止められなかったのだ!!

ミステリでは、動機を紛らわすために無関係の人をついでに殺すパターンがたまにあるので、そこは百歩譲ってスルーしよう。でもさあ、いくらフードデリバリーの配達員が町の風景に溶け込んでいるからって、日中の路上で人を殺していても気づかれないって、そりゃないだろう。そんなトリックがまかり通るのならば、全てのミステリ作家は廃業せねばなるまい。

それに、通り魔の連続殺人に見せかけるなら殺害方法は似せるべき(でないと、報道を見た模倣犯と思われる)だし、通り魔らしいからといって被害者の身辺を洗わないほど警察は無能ではない。被害者の不倫相手の夫なんて真っ先に疑惑を持たれるはずだろうに。

付け加えると、川添がいなくなったのは、フードデリバリーの格好をした亀山を川添は目撃していて(フードデリバリー同士ならお互いを認識できるんだって。なんじゃそりゃ)、しかも川添のGPSに自分のフードデリバリー姿が映っていたため、亀山によって始末されたからだ。そのあと亀山は、川添の自宅から動画データの保存されたパソコンを盗んでいるのだが、おそらくクラウド保存されているんじゃないかなあ。あと、かなり意味ありげに指摘されていた「被害現場が優奈の散歩コース上」の件は特に触れられず。ただの偶然だったようである。

低予算邦画で脚本がグダグダなのはいつものこととはいえ、探偵モノでここまで話がぶっ飛んでいるのは、ちょっと珍しい。そういう意味で、注目すべき作品かもしれない。ついでに気になったことをひとつ。おそらく数年前と思われる回想シーンが何度も挟まれるが、加藤小夏ではない役者が演じている昔のモナコがいくらなんでも別人なので困惑した。加藤小夏なら高校生を演じても不自然ではないし、わざわざ配役を変える必要はないんじゃないかなって思った。


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