【エンタメ日記】『アイアム・ア・コメディアン』『マミー』編 2024/08/03
【邦画新作/ドキュメンタリー】『アイアム・ア・コメディアン』日向史有監督
『THE MANZAI』での優勝経験もある漫才師・ウーマンラッシュアワーの村本大輔に密着したドキュメンタリー。冒頭、かつては年200本あったTVの仕事が最近は年1本に激減したと示される。この理由は度々炎上している村本の政治的発言をTV局が嫌っているからだと、どうやら本人および監督は考えているようだ。ただこれ個人的には疑問で、TV局の側が無難を求めるがゆえにキャスティングを避けている面が多少はあるにしても、村本は今も吉本興業所属だしマネージャーもついているのである。吉本が本腰を入れれば出られそうなバラエティ番組も少なくない。「TVに出られない芸人」というイメージ戦略をまったく意識していないわけではない気がするが。あと、映画中では何度も劇場やライブの舞台で漫談を披露しており、あるいは年に1度のTV出演を見ても感じるが、元から早口が売りではあるが最近は明らかに滑舌が悪く、神経を集中していないと何を言っているのか聞き取れないのである。ライブとかならまだしも、ながら視聴が前提とされるTVに向いていない。TVに出られないのって、その辺の理由もありそう。
さて、密着ドキュメンタリーである以上、「たまたま撮れてしまったもの」にのみ価値がある。本作の場合は特に2つが挙げられそうだ。ひとつは、大々的にぶち上げていた2020年の単独ライブツアーが緊急事態宣言により全て中止となり、村本が大人泣きしている音声(映像は無い)。もうひとつは終盤、あるライブの漫談で「昨日、父が死にました」と切り出して、臨終間際に集まった家族の様子を笑い話にしたあとで、ひとり暗がりでうずくまる姿。どちらもたしかに村本の”素”であろう。ただまあ、劇場型というか、どちらも他人から見られているのを前提としているかのような、ベタな行動ではある。あと、アメリカでの初舞台でまったく笑いが起こらずスベっていたのはいいとして、その後にグチグチと言い訳していたのはダサかった。わかっていたことだけど、村本大輔は何よりも先立ってナルシストなのだな。
【邦画新作/ドキュメンタリー】『マミー』二村真弘監督
1998年に起きた和歌山毒物カレー事件を追ったドキュメンタリー。当時ワイドショーの格好の標的だった林真須美への死刑判決が妥当なものか再検証する部分が核。夏祭りで用意されたカレーの鍋にヒ素を入れた目撃証言は正しいか、あるいは林宅のヒ素がカレーに混入されたものと同一だという化学分析に妥当性はあるか、などを客観的に検証していく。これらの内容から、推定無罪の原則からして林真須美への死刑判決はまずくないか、と誰しもが思うだろう。ただ、それよりも心に残ってしまうのは、林真須美の夫・健治の木訥としたキャラクターであろう。高齢のため施設に入所しており車椅子移動だが、喋りはしっかりしているし当時の事も和やかに語る。その流れで、自らヒ素を飲んで入院して保険金を騙し取った話も同じテンションでするのである。当時は真須美にヒ素を飲まされた被害者のように報道されており、警察からもそう証言してくれと言われたらしいが。しかし、こんな楽しそうに詐欺加害の話をされるとさあ。鑑賞後、横の観客(女性2人)は「疑われるようなことをしてるからね」と言っており、その感想は良くないのだが、まあそう捉えてしまう。
映画を観ていて気になるのが、健治や長男(顔はモザイク処理)の住んでいる部屋に、どうにも成人男性の一人暮らし(多分)には不釣り合いなぬいぐるみや、かこさとしの絵本があり、冒頭から何度もアップで写されるのである。ぬいぐるみは「ポケモン」や「すみっコぐらし」なので事件よりずっと後のものだし、子供とは縁のない健治や長男が所持しているのは違和感を覚える。この意味は、後半になってサラッと、しかし最大級の衝撃を持って種明かしされる。構成は作為的ではあるが、彼らの実際の部屋を撮影しているだけなので嘘はついていない、ドキュメンタリーとしてはギリギリの演出が組み込まれているのである。別にルールは逸脱していないので、その仕掛けに文句を言う気はない。ただ、いくら客観的な検証を重ねたとしても、結局は暴力性を含んだうえで観客の劣情に訴えるのが最善だとした監督の判断に、何かモヤモヤするものを感じずにはいられないのも事実だ。
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