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【エンタメ日記】朝の早よから『ボーはおそれている』編 2024/02/12~02/18

2024/02/12(月・祝)

【新書】『バレエの世界史』海野敏・著

バレエがどのように誕生して発展して現在に至ったかという600年が、ヨーロッパ史と並行して大局的に通観されている。重要な人物や作品の名前を、歴史の中に位置づけて把握できるのが良い。19世紀のバレエダンサーであるマリー・タリオーニの熱狂的なファンが、競売で手に入れた彼女のバレエシューズを煮込んで食べた逸話がインパクトあった。いつの時代にも変態はいる。


【演劇】「最高の家出」@紀伊國屋ホール

劇団ロロを立ち上げた三浦直之(映画方面だと『サマーフィルムにのって』の脚本の人)による書き下ろしの新作。新婚生活に疑問を持ち家出をしていたが無一文になってしまった立花箒(演:高城れに)は、住み込みで求人募集しているとの情報から、ある劇場へと辿り着く。そこでは、ひとりだけの観客のために、商店街を舞台とした劇が7ヶ月に渡って毎日上演されるという。そして翌年の同じ日から同じ劇が再スタートし、もう何年も同じ劇が繰り返されている。外には出られないはずの芝居小屋からメイン役の男がいなくなってしまったため、箒はいきなり代役で舞台に立たされる。
公演終了後の帰り道で、おそらく高城れに目当てで来ていたと思わしき観客の複数から「話が難しかった」という感想が聞こえてきた。しかし、隠されたメッセージとかならともかく、話そのものは簡単なほうだろう。終盤で物語の構造をすべてセリフで説明してくれるし。リアリティラインが低いだけで不条理とまでは言えず、中盤から登場する箒の夫(演:尾上寛之)を含め、登場人物全員が常識からズレているキャラクター劇として安定して楽しい。もっとも、展開自体は予想の範疇に収まり驚きは少ない。まあ、それはどちらを優先するかということなのだが。ただ、さも謎めいた空間に迷い込んだ一般人という役回りのはずである箒のほうに、多くの未解決事項があるの気になる。冒頭で一緒にいた人物とか、なんでも開けられる鍵とか。そのあたりが、不思議な余韻に繋がっている。

2024/02/14(水)

【初めて買ったもの】トリッパのトマト煮込み@「メルカティーノ」新中野店

560円

トリッパが何なのかも知らずに食べてみたが生臭さがダメだったので、粉チーズを大量にかけたところ、おいしくもまずくもない何かになってくれた。食べ終わった後しばらくそのまましておいたら残り汁がゼラチン状の塊になったのが怖かった。あとで調べたらトリッパは牛の胃の総称だった。

2024/02/15(木)

【小説】『パッキパキ北京』綿谷りさ・著

実際に北京に滞在していた著者の体験を基にした”フィールドワーク小説”(宣伝惹句より)。コロナ禍以降の北京の様子が多くの固有名詞とともに描かれている、『なんとなくクリスタル』に端を発するパターンの最新系だが、超ポジティブかつ超アクティブな主人公のキャラクター性を著者が会得できていないようで、どうにも空回りしている。これなら普通にエッセイとして綿谷りさの北京滞在記を読みたかったかも。


2024/02/16(金)

新宿の映画館をハシゴして4本鑑賞。さすがに疲れた。

【洋画新作】『ボーはおそれている』アリ・アスター監督

TOHOシネマズ新宿・スクリーン7で鑑賞。平日の朝9時だというのにグッズ売り場に長蛇の列で何事かと思ったら『ハイキュー!!』劇場版の客だった。早朝からこの調子だと、パンフを買うのは到底無理。

個人的にはアリ・アスター監督作品は「何か作業している部屋の傍らで延々と流されているのがちょうどいい上質なBGV」と捉えているので、その意味では本作は最高級。ちゃんとした不条理(矛盾した表現だが)は心地がいいのである。『ヘレディタリー』や『ミッド・サマー』は、いかにも意味や文脈がありそうに仄めかすので、いちいち考えてしまい脳が疲れるのだが、本作は最初から「個々の事象に意味はない」とわかりきっているので、純粋に変な出来事を楽しめる。いくらユダヤだの母親からの呪縛だの言ったところで、巨大な男性器の化け物によるインパクトが全てを帳消しにするわけだし。

【邦画新作】『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵 斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』光岡麦監督

新宿バルト9・スクリーン2で鑑賞。こっちも『ハイキュー!!』旋風が吹き荒れていた。バルトの場合、ファンが大挙する系の映画グッズは隔離された特設スペースで販売するので、他作品への影響は無いのだが。

ミステリを即興劇でやろうという無謀な企画。嵐によって閉ざされた山奥の屋敷で殺人事件が起こる王道パターンだが、出演者たちは互いの設定を知らず、台本も何もないまま即興で演技をしなければいけない。これで何が起こるかというと、まずカメリハができないのである。そのため、誰かがセリフを喋り始めて顔のアップになると、手前にいる人の後頭部が映り込んだりしている。特に劇団ひとりは好き勝手に動き回るし、技術班は大変だっただろうなあ。シーン単位の段取りは決まっているため、その場の流れで険悪になっている同士が次のシーンで親密に会話していたりなど、その手の矛盾を挙げればきりがない。何より問題なのは、これは演者たちによるガチの犯人当てでもあるのだが、用意されている”正解”よりも、演者の推理のほうが論理的に上回ってしまっている点であろう。その一方で、嵐で孤立している設定を忘れているのか「救急車、呼びました」とか言っているし、もうグダグダ。劇団ひとりが即興劇に大いなる信頼を寄せているのは重々承知だが、しかしそれはメタ的なツッコミ視点の存在するバラエティ番組だから成立するのである(『キス我慢』の劇場版でも、その視点は確保していたのに)。ただ単に脚本を放棄しただけの本作は、映画というジャンルを愚弄しているだけ。

【邦画新作】『コーヒーはホワイトで』岡山一尋監督

シネマート新宿・スクリーン1で鑑賞。巨大なスクリーンで謎の邦画を観る。
別ブログに長文レビューをUPしました↓


【邦画新作/ドキュメンタリー】『WILL』エリザベス宮地監督

テアトル新宿で鑑賞。
ご存知、いろいろあって今は山小屋に住んで狩猟生活をしている東出昌大に密着したドキュメンタリー。周囲にいる狩猟仲間たちからは仄かなスピリチュアル風味を感じ取ってしまい、付き合う人を考えたほうがいいのではと最初は思ったが、おそらくこれは逆に考えるべきで、東出昌大の周囲にそういう人が集まりがちなのだろう。天性の人たらしである彼にかかれば、周囲に女性が何人も集まるし、スキャンダル目当ての週刊誌記者だって絆されて仲間になってしまう。世の中を扇動させるためなら正確性すら葬るメディア報道の卑劣さもさらっと指摘されているが、であれば同時に、元から東出昌大と親密である監督の撮ったドキュメンタリー映画もまた、真正面から信じてはいけないだろう。

【初めて入った店】「煮干中華そば 鈴蘭」

テアトル新宿すぐの交差点のところ
期間限定の「味噌煮干し中華そば」950円
普通に美味しい。


2024/02/18(日)

【邦画旧作】『こいびとのみつけかた』前田弘二監督

変人というよりは精神科に行けば何らかの病名をつけられるであろう青年が、いつも行っているコンビニ店員の女性にアプローチすると、トントン拍子で良い感じに進んでしまう。その芋生悠演じる女性による、当然のようにすべてを受け入れてくれる「男にとって都合の良い女」感で溢れた前半は、かなり抵抗があった。その理由の一端とされる真実が中盤で明かされ、後半以降は青年に試練が与えられる構図ではあるのだが。他の前田監督作と比べてもオフビートからくる心地よさが少ないのは、周囲が善人の理解者だらけで固められており”他者”が存在しないのと、女性のほうの行動や思考が最後までいまいち納得できないからか。

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