遺伝子 大いなる人類史 下

 シッダールタ・ムカジーという、インドの学者の科学読み物。
 上巻は去年読んだことは以前にも書いた。下地になる化学知識が不足しているため、化学について学び直してから、下巻を手に取った。

 本著は遺伝子の研究の歴史だ。アリストテレスが鶏の卵について研究してから2500年後の現代まで、遺伝子がどう扱われてきたかを書いている。
 上巻では遺伝子の正体はDNAだと同定され、ワトソンとクリックがその構造を解明。人類がゲノム編集技術を手に入れるところまでが書かれている。下巻はその続きだ。
 ゲノム編集によって遺伝子疾患を治療する試み、ips細胞、新優生学などがおもな内容。こういう海外の人が書いた化学書で日本人の功績が乗ってるとやたらうれしくなる。これが普段スポーツに興味ない人でもオリンピックは見る心理だろうか。

 私がとくに気になっている、生物の誕生についても簡単に触れられていた。原始の地球環境を模したフラスコ(通称原子のスープ)の中で加熱と冷却を繰り返すと、RNA、アミノ酸、脂質の泡が生まれる。脂質の泡にRNAが入り、分裂をはじめると、生命になる。
 RNAワールドの仮説だ。まあ、原子のスープは原初の地球環境を模せていないということはのちにわかったのだが、イメージとしては掴みやすい。

 たとえまちがっているにせよ、ひとつの仮説を理解することには大きな意味がある。ゼロベースで知識の断片を組み立てていくより、仮説の中のまちがっている部分を修正して真実に近づいていくアプローチのほうがずっと簡単だ。
 今回でいえば原子のスープ仮説を修正すればいい。まず、過去の地球の状態について正しい知識を得る。これは地学の問題だが、地学に踏み込むと二度と生物に帰ってこれない気がするので、ここは簡単に調べるにとどめよう。
 次に、なぜRNAなどの物質になるのか、だ。これはつまりエネルギーを与えられるとどう変化するか、どのような状態で安定するか、という化学平衡の問題。これらを理解することで、より最新の学説を、より詳しく理解できるだろう。

 もうひとつのアプローチとして、DNAについて学ぶことも案としてはある。DNAという、巨大な分子の性質を理解することで、その成り立ちについても類推する。また、これはゲノムについての理解にもつながる。生命の誕生のあとには進化についた詳しく知りたいが、進化の影にはゲノムの変化があるからだ。

 今のところ後者の案を取るつもりだ。DNAを学ぶという一手は、生命の成り立ちと、進化のメカニズム、両方に攻撃を仕掛けられる。また、遺伝子についての本を読んだばかりで、知識の下地もあるので繋がりがいい。といっても、しばらくは中国史についてやるだろうから、そのあとだが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?