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短編小説「#1秒の恋」
最近の私の、密かな楽しみ。
「ブックカフェ」でお気に入りの小説を読みながら、17時15分を待つこと。
いつも決まってその時間に、目の前をものすごいスピードで駆け抜ける自転車のお兄さんに、私は恋してる。
時間にして、およそ「1秒の恋」だ。
その1秒のために、私は私の全てを懸けている、と言ってもいい。
昼休みを削り、仕事を早く片付けて、ブックカフェに向かう。
仕事場からここまで、ダッシュで約5分。
汗だくの顔は見せたくないから、17時にはアイスティーの注文を終えていつもの席につき、できるだけ自然に本を開いていたい。
おそらく、彼に見られることはないだろうけれど、それでもやっぱり、きちんとしておきたい。
恋する乙女のはしくれとして。
そして、17時15分。
今日も私の目の前を、赤いかっこいいタイプの自転車で、颯爽と走り抜ける彼を見ることができた。
まるで、風だ。
通りの角を曲がっていく彼を見送り、私の一日も無事に終わる。
今日は「お盆」の入りで、仕事場の人数が少なかった。
おかげで、担当ではない電話に出るハメになってしまい、いつもの時間に遅れそうだった。
私は人通りの少ない歩道を、焦る気持ちを抑えながら、それでも小走りにブックカフェへと向かっている途中で、自転車とぶつかり掛け、転んでしまった。
驚いたことに、「あの彼」だった。
こんな偶然、あるんだ!
※ 真ん中の赤いボタンを押し、3分経ったら進むこと。
「あっぶねぇな! どこ見て歩いてんだよ!」
吐き捨てるようにそう言い残して、「彼」は自転車で走り去った。
いつものブックカフェの前を通って。
私の「1秒の恋」は、1秒で終わった。
恋なんて、そんなもんよね。
だけど私は、うさぎのように、次の恋へとジャンプする。
今度こそ、月まで飛べますように!
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