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三つ子の魂百までも(番外編)3

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その日は、雨だった。雨は心を憂鬱にさせる。
雑居ビルの5階にある、「探偵事務所 リサーチ飯島」に訪れるお客は最近増えてきたとは言え、まだまだ少なく閑散としていた。

「今日も暇だな〜。お客さん来ないし。お姉さん、どうしよう?このままで良いのかな?」
と、いつも陽気な裕美にしては、弱気な言葉を呟いた。
姉の直美は、何も言わずに窓を打つ雨を観ている。
季節は、2月の末。暦の上では春なのに、春はまだまだ遠く感じる。
「尾上君。『辞めたい』って言っていたよ。仕方ないよね。
給料も払えないんじゃ。」
裕美の言葉を無視するかの様に、直美はまだ窓を見ていたが、
突然、直美は振り返って意を決するかの様に言ってきた。
「裕美、私キャバクラで働くよ。この前スカウトされたの!」

思いがけない言葉に裕美は驚いた。
「キャバクラで働くって、探偵事務所を閉鎖するの?
探偵辞めるの?」

「違うよ、裕美。探偵事務所を続ける為にキャバクラで、働くのよ。私の稼ぎでこの事務所を維持するの!
私、スカウトされた時に言われたの『貴女、女優の壇蜜に似ているから、きっと売れっ子になるよ』ってね。
でも、裕美は絶対になったらダメよ。キャバクラで働くのは、私一人でいいからね。」

「でも、お姉さん!お姉さんって、男の人とお付き合いした事あるの?私、見た事ないんですけど。お姉さんそんな所で働ける?
やらしい事されるよ!大丈夫?」

「大丈夫よ。私は上手くするから、心配しないで。ね、大丈夫だから、昨日叔父さんにも、この事は言っておいたのよ。」

「えっ、叔父さんに言ったの?叔父さんなんて言っていた?」

「反対されたけど、説得したの。探偵事務所を維持する為には、仕方ないのよ。
話あって解ってもらったわ。
尾上君の事だけど、仕方無いと思う。
あれ以上迷惑も掛けられないし、残念だけど
辞めてもらおう。仕方無いよ。」

と、直美は心残りがある様に最後は力無く言った。

「それで、いつからキャバクラで働くの?
どこにあるの、その店は?」

「お店の名前はローズって言うの。
場所は、ここの近くよ。一昨日見学したけど、立派なお店よ。リサーチもしたし、叔父さんも『あそこなら、いいだろう』って言っていた。
もう、契約したの。明日から働くわ。」

「そうなの。明日からなの。・・・・」
裕美は、物思いに耽る様に言葉を呑んだ。

「大丈夫だって。心配しないで!裕美。
探偵の仕事もしっかりとするから。
午後から、此処に来るから。」

「うん。解ったよ。お姉ちゃん。・・・」
裕美は、姉の気持ちがあまり理解出来なかったが、姉の探偵に対する熱い想いは感じていた。

だが、皮肉なもので姉がキャバクラで働き出すと、何人かの依頼が舞い込んできた。
嬉しい悲鳴であるが、人手が足りない。

「裕美、どうしようかな?やっぱり男手が必要だと思わない。叔父さんだけでは大変だし、
男の人を一人雇うか?」
と、直美は聞いてきた。

https://note.com/yagami12345/n/n86c2340cf856


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