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(新々)三つ子の魂百までも 22



「林田さん、この事件を記事にするのですか?」
と、僕は質問した。

「もちろん記事にします、その為にあのビルまで行ったのですから」
と、僕の質問が気に触ったのか少し不機嫌な語調である。

「でも、霊を撮る写真家が霊を撮れないで、どの様な記事を書くのですか?」
と、林田の不機嫌な語調に合わせて、意地悪な質問を更にした。

「だから、裕美さんの撮った写真を使うのです。」
と、熱い言い方だった。

「霊の事を解明していくのは、裕美さんですよ。
前回の記事もそうだったけど、裕美さんが解明した事を
貴方はただ書いただけなのに・・・・」

僕も熱く言ったが、その後の言葉は敢えて言わなかった。

「・・・・・。」
林田は沈黙し、不機嫌な顔になる。そして言った。
「前回の記事の事で、怒っているんですか?杉田君は」
と、冷めた言い方だ。

「怒っていると言うよりも、残念だっただけです。
裕美さんが解決した事を、全て貴方の手柄みたいに書いてあった。裕美さんの名前は無く、本当に残念でしたよ。
・・・・・。
僕、今思ったんだけど、・・・・
林田さん、その記事を出した時に、心が荒んだのでは無いかな?
『自分だけ良ければ良い』と言う感情が芽生えたから、
霊を撮れなくなったのでは、ありませんか?」

失礼は承知であるが、今思い付いた僕の本心である。

「・・・・・。」
林田は、目線を僕から逸らし下に向ける。

「そうかも知れませんね。・・・」
と、力無く言った。

私達の会話は、
裕美さんの耳に入っていないみたいで
「林田さん、この事件は相当の覚悟で臨んでください。
何しろ、人が死んでいます。この霊の仕業かどうかは、
解りませんが、関与している可能性は大いにあります。

私はこの霊を呼び出し会話するつもりですが、これは相当危険な事だと思っています。
何しろ、狂気の殺人者です。何をされるか判らない。
でも、戦うつもりです」

と、決意を込めた爆弾発言だった。

「怨霊を呼び出すのですか?・・・・。
この前みたいに霊を呼び出すのですか?」
と、林田は驚いている。

「どの様にして怨霊を呼び出すのですか?」
と、僕は、裕美さんに質問した。

「相手が霊だから、来るか来ないか判らない。
それに、あの怨霊は壁に縛られているから、動けないかも知れない。でも、会話ぐらいはできるかも知れない。
初めての事だから、私にも判らないわ。」

「霊を呼び出すって、
あのビルにもう一度行くのですか?」
と、林田は聞いてきた。

「ダメ、あのビルに行ってはダメ。敵地に乗り込むのと同じです。
戦いは有利な地元の方が得策です。
こちらに居て会話するのです。
相手は縛られていても、会話ぐらいは出来るでしょう。
橋田君を脅したみたいに、あの怨霊なら、私を脅しに来るでしょう。」

「脅しに来る!あの少年の聞こえていた事は、空耳では無くて現実だったのですね」
と、林田は聞いてきた。

「そうだと思います。でもあの怨霊は、・・・・」
と、ここで言葉を切った意味は何?
裕美さんの表情が、何故か少し明るくなった。




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