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(新々)三つ子の魂百までも 28


時刻は丑三つ時(2:30)に近づき
僕も緊張感がだんだんと昂まって来る。

裕美さんは用意していた、蝋燭を鞄の中から出してきた。
「公ちゃん、蝋燭を灯したら、事務所の電気消してね。
そして、修君が見えなくてもいいから、『霊を撮るぞ』
と、思って写真を撮ってね。
特に、私の周りと公ちゃんの周り。・・・・・
そろそろ、時間ね。蝋燭を点けるわよ。
公ちゃん、電気消して。」

と、命令された僕は、忠実に任務を果たす。

事務所に蝋燭の火だけが灯り、不気味でもあり、幻想的な空間が広がった。
それは霊を呼び出す神聖な行いの様にも見える。

だがその本心は、一連の事件を解明して
金を得ようとする者達の集まり。

裕美さんは、瞑想している。
まさか、迷走はしてはいないだろう。

前回と同じ様に頭をゆっくりと動かす裕美さん。
僕は、修の後ろに居るのだが、それは裕美さんの側だと
私が邪魔になるかも知れないとの配慮からであり
・・・・「霊が取り憑いて来るのが怖い!」
と云う臆病心からでは無い。

蝋燭の灯りだけでは、みんなの顔ははっきりとは見えない。
林田はこの場面の撮影をしている
シャッター音だけが不気味に響く。

僕は修の耳元で
「もう、写真撮ってもいい頃かな」
と、指示を出すが、何の根拠も無い無責任な指示だった。

そう言われた修は、静かに立ち上がり、僕の横に並ぶ。
そして、瞑想する裕美さんを、先ずは一枚撮った。

写真を撮った後、修は僕の顔を見てうなずく様に首を縦に動かした。
……これで良いの?……と、聞いているみたいだ。

修の心を感じた僕は、力強く首を縦に動かす。
……うん、うん、それで良いよ…… と、心の中で言った。
でも、裕美さんとの距離が余りにも近すぎる。
広い範囲で撮らないと、霊は動き廻っているかも知れない。

「もう少し、離れて撮ってみようよ。全体的に写してみよう」
と、僕は指示を出した。
もっとも、根拠は何もないが。

部屋は蝋燭の火だけなので、少しづつ、少しづつ確認しながら離れて行く。

その間も、裕美さんは瞑想を続ける。
林田を僕は目で追うが、何処にいるのか判らない。
シャッターの音だけが響いて来る。
修のシャッター音とは、少し違う音だ。

修のシャッター音も聞こえる。

……もう霊が来ているのかな?……
と、いまさらながら、僕は恐怖を感じ出した。

…来ているのなら、林田に取り憑け!…
と、霊に命令したい。




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