今こそ知ってほしい、政治献金をネット上でオープン化させた、台湾の市民たちの話
VoicyのプレミアムリスナーさんたちとLIVE配信でお話していたら、急に「過去に雑誌へ寄稿した話を今こそ伝えなければ!」と思い立ち、このnoteを書いています。
(音声の方が良い方は、Voicyでも同じ話をしておりますので、そちらをどうぞ。)
2020年冬号の『週刊文春WOMAN』への寄稿
『週刊文春WOMAN』2020年冬号に
オードリー・タンの台湾に学ぶ
社会を変革する「アクション」の起こし方
というタイトルで4ページ、政治献金のデジタルオープン化について寄稿させていただいたことがありました。
デジタル版は今でも見られますので、こちらからどうぞ(すごい厚みのある内容なのに、デジタル版499円。本当に頭が下がります)。
その寄稿に編集部が付けてくださったリードと呼ばれる「まえがき」部分を引用させていただきます。
ハッとしませんか?
私たちは、「桜を見る会」の痛手を忘れ、また今回も諦めようとしているのかもしれません。それはまるで主権がこちらにあることを忘れ(させられ)ているのかもしれません。
私自身もうっかりするところでした。
「どうせ名目や形だけ変えて、変わらないんだろうな」と、思いかけていました。せっかく台湾に住んでいるのに、ダメですよね。
今日は、当時書かせていただいた内容の一部と、加筆により、政治献金をネット上でオープン化させた台湾の市民たちの話をご紹介します。
今こそ知ってほしい、政治献金をネット上でオープン化させた、台湾の市民たちの話
「政府は国民のためのものなのに、説明をせずに進めるのはおかしい」と、立ち上がった市民たち
オードリー・タンさんがデジタル大臣として入閣した2016年からさかのぼること4年前の2012年に設立され、彼女が今でも参加し続けるシビックハッカーコミュニティ「g0v(ガヴ・ゼロ)」。
「g0v(ガヴ・ゼロ)」という名称は、政府の略称が「government」に由来した「gov」であるのに対し、彼らは“政治をゼロから再考する”というスタンスを表したものです。
“政府が上手にできないのなら、そのお手本を見せてあげよう。政府がそれを良いと思ったら、そのまま取り入れれば良い”という感じです。
そんな「g0v(ガヴ・ゼロ)」が始まるきっかけとなったのが、2012年2月に行政院(内閣と各省庁を併せたものに相当)が打ち出した「経済力推進プラン(原名:経済動能推升方案)」の動画広告。
巷では「台湾史上最悪の広告」と呼ばれています。
開いた口が塞がらなくなるような内容ですが、これは当時の政府が実際に流した広告なのです。
これに対して、「政府は国民のためのものなのに、説明をせずに進めるのはおかしい」と、立ち上がったのが、4人のシビックハッカーたちでした。
彼らは、台湾Yahoo!が主催したハッカソンに参加し、政府の予算データをオープンデータ化して公開したのでした。
この辺りの流れや「g0v(ガヴ・ゼロ)」の活動については、拙著『オードリー・タンの思考』をご参照ください。手前味噌ですが私の知る限り、おそらく日本で一番詳しく書いている本です。
2014年に「ひまわり学生運動」で活躍が周知される
その後2014年に「ひまわり学生運動」が起こった時には、オードリー・タンさんを含む「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーの活躍で “多くの意見が見える化された”ことが、このデモの成功に大きく貢献しました。
「ひまわり学生運動」が起きたきっかけもまた、台湾で多くの利害関係者が出るイシューにも関わらず、政府が「急いで決めてしまおう」と、秘密裏で取り決めをしてしまったことにありました。
「ブラックボックスのうちに物事を進める行為は、許されることではない」という民意が、このデモで政府側にも少なからず伝わったという意味で、このデモは台湾の民主主義の歴史の中で成功し、かつエポックメイキングな出来事であったと言えます。
「ひまわり学生運動」については過去のnoteをご参照ください(拙著『オードリー・タンの思考』からの一部抜粋です)。
政治献金データを政府に公開させるまで
そんな「ひまわり学生運動」での直後に「g0v(ガヴ・ゼロ)」が着手したプロジェクトが、「政治献金デジタル化」です。
かつての台湾では、政治献金はそれを管轄する「監察院」院内のパソコンでしか閲覧することができませんでした。
後の法改正により、有料で印刷できるようになると、民間の有志らが立法委員(日本の国会議員に相当)7人分の政治献金の全資料を印刷し、それをスキャンした2,600枚以上のデータをUSBに入れ、「どうにか活用できないか」と「g0v(ガヴ・ゼロ)」に持ち込みました。
「ひまわり学生運動」での「g0v(ガヴ・ゼロ)」の活躍を目にしていたからです。
驚くべきことに、「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーたちはその2,600枚以上のデータを24時間以内という短時間ですべてデジタルデータ化し、プラットフォーム上で公開してしまいました。
その結果、台北市のお隣、新北市の市長選挙の際、当選した候補者が、当選後、「人事支出」の名目で、4日間で数百人に少額を渡していたことが明らかになり、論議を呼びました。
その他にもさまざまな議論が起き、2018年、ついに監察院は政治献金法を部分改正し、所蔵データをプラットフォーム上で公開することになったのです。
「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーが素晴らしいのは、監察院がデータをオープンにしただけで物事を終わらせず、この監察院のデータを利用して、政治献金の流れが一目瞭然なデジタルプラットフォームを構築したこと。
ここ「數讀政治獻金」というサイトでは、過去12年間の立法委員選のデータが公開されています。
ここではそれぞれの立候補者の政治献金総額はもちろん、献金元の企業(子会社・関連会社含む)や団体名、その業界、額などが一目瞭然です。さらに、献金元が合致している他の立候補者のランキングまで出ています(真ん中のカラムの下側)。
さらに、「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーたちは、このデータを見た上で、分析記事なども作成しています。
なぜパブコメは、政府だけに全ての意見が見えて、市民たちは他の意見が見えないのか?
「政府と市民が同じデータを見て、お互いの意見を交わす。それが対話の基礎です。そして、それこそが民主主義ですよね?」というのはオードリー・タンさんを政府に引き入れたジャクリーン・ツァイ前大臣の言葉ですが(ジャクリーンさんについてはこちらの過去note参照ください)、
まさに「g0v(ガヴ・ゼロ)」のメンバーたちも、それを実践しています。
私自身、過去に日本のパブリックコメントに意見を提出してきましたが、その度に「なぜ、政府側からの質問に答える形でしか意見できないのだろう」「なぜ、自分の意見は政府関係者にだけ届き、他の人に見られることはないのだろう?」「なぜ、私は他の人たちの意見を見ることができないのだろう」という疑問を抱きました。
市民と政府間の見ているデータが違い、ブラックボックス化され、一方的に結果だけが知らされる。それは果たして民主主義なのでしょうか?
過去にnoteを書いた、台湾で効果を上げている市民参加型の公共政策プラットフォーム「Join」は、他の人の意見も見ることができます。
社会を変革する「アクション」の起こし方が、どうか日本に届きますように。