【オードリー・タンの思考・インタビュー】オードリーを台湾政府に抜擢した、当時の女性閣僚 ジャクリーン・ツァイ
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【オードリー・タンの思考・インタビュー】オードリーを台湾政府に抜擢した、当時の女性閣僚 ジャクリーン・ツァイ

書籍『オードリー・タンの思考』のコラムとして、オードリーとともに働いたことのある人物へのインタビューを収録します。
オードリーを政府に引き入れた当時の女性閣僚で、任期中は法規討論プラットフォーム「vTaiwan」を設立したジャクリーン・ツァイ氏。IBMで大中華エリアの法務長を務めた経歴を持つ、デジタル方面の法律のスペシャリストです。彼女の法律事務所を訪ね、お話をお聞きしました。
(写真提供:蔡玉玲)

蔡 玉玲(Jaclyn Tsai)
台湾大学法学部卒業、弁護士。過去に台北、桃園、彰化などの地方裁判所で裁判官を務めた後、IBMで台湾・香港・中国大陸を含む大中華エリアの法務長となる。1998年に「理慈國際科技法律事務所」を設立。2013年11月–2016年5月、行政院政務委員(閣僚に相当)となり、任期中は「vTaiwan」の設立のほか、仮想世界関連の政策対応、デジタル経済、Eコマース、スタートアップ領域の法体系の発展などに尽力。

オードリー・タンは、次の世代のシンボル。
彼女たちのコミュニティの中心人物であって、リーダーではない。彼らのカルチャーは、「開放」と「協力」。

はじめてオードリーに会った時のことは、今でも覚えています。ちょうど私がシビックハッカーのコミュニティ「g0v 零時政府(以下、g0v)」のハッカソンに参加して、法規討論プラットフォーム「vTaiwan」の設立を提案しようという時でした。彼女は私の前の番で「萌典(Moedict)」を提案するところだったので、席が隣同士だったんです。身長が高くて、服装も個性があるし、髪も長いし、とても印象的でした。

オードリーは入閣したから広く知られるようになりましたが、彼女の周りには本当にたくさんの素晴らしいハッカーたちが存在します。台湾のハッカーコミュニティは全世界でも一、二位の規模なんですよ。確かにオードリーは次世代のシンボルかもしれませんが、彼らのカルチャーに、「代表」とか「リーダー」といった概念はありません。「オープン」「協業」が彼らの信条です。

私はオードリーと知り合うより先に、「g0v」の村長である高嘉良(clkao)と知り合いました。イベントを開催する時、彼らに「代表を何人か参加させてほしい」と言っても、いつも「それは無理だ。何人かで行くことはできるけれど、そのメンバーが代表というわけではない。彼らは参加者であって、“代表”ではない」と返されたのを覚えています。

法律は人の行為を律するものだから、
まずそれが適用される相手を知らないと良い設計できません。民主国家とはそういうものではありませんか?

私が入閣した当時、台湾の法律は主要産業である製造業のものに非常に偏っていました。そこで私は非製造業にもフィットした法律体系を整えたいと提案したんですね。当時の行政院長も快諾してくれました。

国民たちも仮想世界関連法改正の討論に参加できるよう「vTaiwan」の設立に取り掛かり、私はまず「g0v」のハッカソンに参加して、その概念を提案しました。「民間でプラットフォームを作ってくれたら、私は大臣として自分が担当するデジタル案件や政策のすべてを必ずそのプラットフォームで討論します」と言いました。たぶん、大臣が民間のハッカソンで提案するなんて、世界で初めてだったんじゃないかしら。

私は、法律は人の行為を律するものだから、使う人のためにあるものだと思っています。だからまず、仮想世界のユーザーらの考えを知る必要があり、それでこそ良い法律ができるのです。民主国家とはそういうものではありませんか? 私が開かれたパブリックコンサルテーション・バーチャルプラットフォームを作り、関係者らがデジタルツールを用いて政策の制定に関われるようにしたのは、そういった考えがあったからです。

多くの「g0v」のメンバーが私の提案を支持してくれ、ボランティアとしてすぐにプラットフォームを作ってくれました。その時に私との連絡を担当してくれたのがオードリーだったんです。

オードリーや「g0v」のメンバーらは、私に教えてくれました。「『開放』と『協力』によって成り立ったコミュニティが、草の根のパワーで公共事務に関心を持ち、互いの協力によって変化を成し遂げる。この『開放』と『協力』の核心価値こそが台湾のハッカー精神だ」と。私は彼らに啓発されてから、台湾の未来を変えるには、ハッカー精神が必要だと思っています。オードリーはハッカーから大臣になり、私も大臣からハッカーになりました。

彼女はとてもワイルドな思想の持ち主なのに、手段は温和で、反抗するとか暴力に訴えるということは一切なく、とても礼儀正しい。政府の中に入ってからも、何らかの地位に就いてトップダウンするのではなく、ボトムアップで政府を変えようとしていますよね。それはとても素晴らしいことです。政府とは一つの古い機械のようなもので、すぐにすべてをアップデートするのは無理ですが、政府組織に入った人々がバトンリレーのように少しずつ前に進めば、いつの日にかきっと変えられるのではないでしょうか。

オードリー以外にも、「g0v」にはTonyQというメンバーがいて、彼も同じように大学を卒業していませんが、後に私のオフィスでスタッフとして約7、8カ月間、勤めてくれました。オードリーは最初、「vTaiwan」プロジェクトの外部コンサルタントという形で関わっていたので政府の人事制度に障害はありませんでしたが、TonyQは学歴が高卒だったので、行政院の大臣執務室で仕事をしてもらうにあたっては、私も少しばかり苦労しましたね。

「ひまわり学生運動」で私たちは知った。
下の世代の思想が私たちと違うことを。
そして、それを受け入れなければならないことを。

私が感じているのは、オードリーもその周りの優秀なハッカーたちも、「枠にとらわれることがない」ということです。

私はIBMで数多くの優秀な人材を見てきましたが、彼らにはある種の行動パターンというものがあります。でもオードリーたちには、それがない。「g0v」の村長・高嘉良のように一流大学を中退したり、中卒だったりしますしね。そういった枠にとらわれない人々は、ただ“彼らに合った舞台”があるだけで、素晴らしい能力を発揮することができる。

これまでの台湾には、そういった特質の人々を受け入れる土壌がなかったかもしれません。でも2014年に起こった『ひまわり学生運動』で、私たちの世代は「次の世代の声を聞かなければならない」と思い知ったし、若者たちも「公共政策に参加したい」という思いを強めたと思います。それぞれの考えが違っても、攻撃することはなく尊重し合うことが大事だと、皆が分かり始めています。

「vTaiwan」プロジェクトを進めていた当時も、私は完成した「vTaiwan」のプラットフォーム上で、大臣として自分が持ちあわせている政策関連の資料を公開したんですね。皆が見ている資料と、私が見ている資料は同じ。オープンデータの概念です。それで、もし誰かが「大臣、あなたの持っている資料は間違っている」と言うなら、あなたが正しいものをください、ということなんです。それもまたオープンデータにして、皆に見えるようにする。そして、誰か何かに問題があると感じる人がいたら、「vTaiwan」上で提議してもらう。それに政府の関連部署から七営業日以内に回答させますと、そう伝えました。問題を提議した人がその回答に満足することができたら、コンセンサスが得られたということで、その問題は解決ですよね。もしそれでもコンセンサスが得られなければ、私たちは利害関係者を招いて「vTaiwan」上でオンラインミーティングをしました。「vTaiwan」は、最初はそのようにして始まったんです。

もちろん始めの頃、政府内でも反対の声がありました。七営業日以内に質問に回答するというのはプレッシャーです。それに、意見を集めた後に関係する部門や企業、有識者を集めて開かれる「vTaiwan」の会議は、全行程をライブ配信して、アーカイブや議事録も残ります。誰がどんな発言をしたのかまで記録に残るというのは、公務員にとって、非常に慣れないことでした。“いちスタッフが部署を代表して発言して良いのか?”と、現場に迷いが生じたんです。

それでも私は、これはやる必要があると思っていました。なぜなら、台湾は民主的で自由な社会ですから、“異なる意見には事欠かない”状況にありました。私たちに欠けていたのは、“どうやって共通認識を得るか”ということでした。それが得られなければ、前へ進めないからです。そんな時、ちょうどUberやAirbnbなどが問題になりました。ただ、これらは通常の手続きを踏んでいたら、早くても1〜2年、遅ければ5〜6年経っても法改正に至りません。そんなに長い時間をかけて討論をすることはできない。

私は政府内で何度も「vTaiwan」について講演し、迅速にコンセンサスを固めることの必要性を説いて回りました。彼らも少しずつ慣れていき、皆の参加意欲も高まっていきましたよ。

台湾は自由な場所です。台湾の会社のうち、97%以上が中小企業なんです。起業は台湾のDNAといって良いでしょう。私の両親も国際貿易の会社を起業していますし、私は法律事務所を創立、私の長男はVRの会社を起業しました。次の世代の子どもたちは、そんな自由な環境で育ちますから、台湾はもっと自由で、オープンな社会になっていくでしょう。

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(2020年9月22日「理慈国際科技法律事務所 Lee, Tsai & Partners」にてインタビュー)

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近藤弥生子 | 台湾在住編集・ライター

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