見出し画像

【オードリー・タンの思考】出版に寄せて 「一人の天才を生むことは難しいが、一人ひとりの心に小さなオードリー・タンを作ろう」

出版に向けてnoteを始めました。

このたび、台湾の現役デジタル大臣オードリー・タンさんについての書籍を日本のブックマン社さんから出版させていただくことになりました。2020年秋の出版に向けて、現在絶賛執筆中なのと、オードリーさんへの追加取材が始まろうとしているところです。

今後、noteで書籍に掲載する原稿の一部を公開することで、できれば広く皆さまからのご意見やご感想、もっと聞きたい知りたいことなど伺い、より良い本作りの参考にさせていただければと思っています。

ご縁の始まりになったインタビュー

政治ジャーナリストではない私が、オードリーさんのような方について書かせていただくのは恐縮なのですが、すべてのご縁の始まりは、ひとつのインタビュー記事でした。

それが、2019年12月に公開された「「国民が参加するからこそ、政治は前に進める」――38歳の台湾「デジタル大臣」オードリー・タンに聞く(Yahooニュース特集)」。この記事はたくさんの方に読まれ、大きな反響をいただきました。

いただいた反響の中で特に多かったのが
「オードリーさんのような方がデジタル大臣をしている台湾がうらやましい」、「オードリーさんを入閣させた台湾社会が素晴らしい。日本では到底無理だ」というものでした。

台湾で感じた「多様性を受け入れる暮らしやすい社会」と、日本の台湾観とのギャップ

私が台湾に移住したのは2011年のこと。駐在していた前夫との結婚のためでした。

妊娠・出産、そして離婚、台湾人との再婚。仕事面では現地企業に就職した後に独立して会社経営。人生の様々なステージを台湾で過ごすうち、台湾の暮らしやすさを至るところで感じてきました。また、民族性だったり、セクシャリティだったり、様々なバックグラウンドを持つ人々がありのままの姿で存在できる台湾の社会は、私の目には先進的に映りました。そして、“シングルマザーとして働く日本人”というマイノリティだった私のことも優しく受け入れてくれました。

また、仕事で日系企業の台湾進出をサポートしたり、独立して日本メディアの台湾特集などをコーディネートしたりするうちに、日本側からの台湾に対するイメージが十年以上も前のまま更新されていないことに気付きました。台湾は「ゆるくてチープで、どこか昔の日本のようにノスタルジックな場所」という既成概念が根強く、台湾の先進的な部分を知ってもらおうにも、なかなか受け入れてもらえない状況が続いていました。

その流れを大きく変えたのが、2020年始めから全世界的に流行し、半年経った今でも猛威を振い続けている「新型コロナウイルス感染症」です。

コロナ禍が台湾の存在感を大きく変えた

コロナ禍において台湾は、かなり早い段階でウイルスの感染拡大を封じ込めに成功した「防疫の優等生」として讃えられただけでなく、「Taiwan Can Help」というスローガンを掲げて他国にマスクや防疫物資を寄贈するといった行動に出て、世界に向けて大きな存在感を示しました。(日本にも200万枚の医療級マスクなどの物資が寄贈されています!)

この台湾の防疫において、防疫対策チームや医療関係者、マスク販売を管理・実行した方々と連携しながら、優秀なシビックハッカーらを率いてマスクの在庫が分かる「マスクマップ」や「eマスクシステム」を開発し、デジタル面から大きく貢献したのがオードリー・タンさんでした。

もはや台湾がデジタルで日本よりずっと先を行っていることに異論を唱える人はいなくなり、日本からはオードリー・タンさんや台湾への注目がますます高まっています。

オードリー・タンさんについての書籍で、何を語るか

私はたまたま海外在住になった一人の日本人として、そして一人の書き手として、いつも「日本のために」と思って文章を書いています。「台湾が素晴らしい」ということではなく、「日本社会のために、参考にできると思ったことを伝えたい」という姿勢です。

ほんの少し前までは「台湾から学ぶ」という趣旨の企画を日本のメディアに提案しても、「日本が台湾から学ぶというのは、しっくりこない」と受け入れられないことが多かったのですが、そんな状況は一新されました。

今ではそういったタイトルや見出しのついた特集やタイトルがどんどん企画され、私もそういったところに寄稿という形で参加させていただけるようになりました。私は、この変化は日本社会が前進するための大きなチャンスだと思っています。「埋めなければならないギャップに気付くことこそ、成長の始まり」だと思うからです。

私は過去の寄稿の中で、こう書いたことがあります。

日本にもオードリー・タンはきっといる。肝心なのはそのような人材が、たとえ皆が思い描く政治家のイメージと幾ばくか違っていたとしても、より良い社会のためにその人物を起用できるかということだ

この寄稿を読んでくださった方から「彼女の0.01%ぐらいかもしれないけど、いろんな人の力になれる小さなオードリー・タンでありたいと思う」というお言葉をいただき、はっとしました。

自分ではない誰かを探すよりも、もし誰しもが心の中にオードリー・タンを宿すことができたら、そんな人を社会に増やすことができたら、きっと人や社会はもっと居心地の良いものになるはずだと確信しました。

今回、オードリー・タンさんについての書籍を書かせていただくに当たってのコンセプトは、その方からいただいた気付きを参考に、こう定めてみました。

「一人の天才を生むことは難しいが、一人ひとりの心に小さなオードリー・タンを作ろう」

今後、改めて書籍のためにオードリー・タンさんへの取材が始まります。人生初の著書は、そんな想いで書いていきたいと思っています。

(写真:Yahoo!ニュース特集のインタビューの際、行政院内にあるオードリーさんの執務室入口にて。左から、Yahoo!ニュース特集編集部の安藤さん、近藤、オードリーさん、通訳Chocoさん、同じく編集部デスクの神田さん、フォトグラファー松田さん。)


こちらでいただいたサポートは、次にもっと良い取材をして、その情報が必要な誰かの役に立つ良い記事を書くために使わせていただきます。