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下村敦史「法の雨」

下村敦史「法の雨」。「闇に香る嘘」で江戸川乱歩賞を受賞したミステリー作家。この作品は、ミステリーとしても充分に面白いが、その枠を超えて「成年後見人制度」の問題を取り扱ったことで読み応えのある作品だった。
https://www.tokuma.jp/book/b509705.html
 99.7%が有罪とされる高裁判決で、何度も無罪判決を下す嘉瀬清一裁判長は「無罪病判事」と呼ばれていた。「疑わしきは罰せず」を厳格に貫き通していた。この裁判長に当たった検事は、たまったものではない。三回もの逆転無罪を喰らったらクビとされる世界。検事の大神護は、嘉瀬裁判長に4度も逆転無罪を喰らい、出世の道を断たれた。そんな彼が、もう一度洗い直したい事件があった。
 暴力団の松金組組長を、病院で窒息死させたとして、起訴された看護師の水島勇作。しかし無罪を勝ち取った後に、彼は松金組の鉄砲玉に射殺された。無罪になったことで報復行為が実現されたなら。判決に責任を感じた大神は、犯行を命じたであろう若頭の須賀を逮捕する決意を固める。判決を下した嘉瀬裁判長は、判決申し渡し中に脳卒中で倒れ、認知症を患って施設で介護を受けていた。遺恨の積もる嘉瀬清一に面会に行って話した大神は、嘉瀬裁判長が厳正に警察や検察の証拠を精査していたことを知る。しかし若頭の須賀を調べるうちに、警察の捜査に決定的な調査漏れがあったことに気がつく。意図して張られた複数のコントロールの糸が明らかになり、刑事捜査も判決も事実とはかけ離れていたことが明らかになる。
 この物語のもう一つの柱は、嘉瀬清一の孫である幸彦が、私立大学医学部に受かったことによる入学金振込の問題である。幸彦の入学金800万円は、早逝した両親に代わって、祖父である清一が負担を約束していた。認知症の疑いありということで、妻の君子は夫の知人を装った人物の勧めで、成年後見人制度を家裁に申告した。しかし後見人に任じられたのは、藤本弁護士だった。家族が任命されることは実際には2割くらいに過ぎないことを、君子は知らなかったのだ。一度任命された後見人は、被後見人が死ぬまで変らない。被後見人の財産保全を目的とする藤本弁護士は、清一の預金から幸彦の入学金を振り出すことを許可しない。このままでは医学部への入学が無効になるため、困惑した君子と幸彦は救済団体のNPOに救いを求める。エンディングに至れば、藤本弁護士が血も涙もない人物ではないことがわかる。しかし、現代の成年後見人制度において、君子と幸彦が遭遇するようなトラブルが頻発しているという。そのことを読んだだけで、この作品は一味違うミステリーと言える。

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