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宮下暁「東独にいた⑤」

宮下暁「東独にいた⑤」(講談社)。電子書籍版はこちら↓
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 MSGを率いるフォン・マイザーの存在感。今やありとあらゆる組織からの注目を惹くようになった。そして畏怖の先に生じる国内外からの懐柔と排斥。外からはCIAやKGBからの触手。東独内部からはホーネッカー議長からの警告、そして反政府組織フライハイトからの襲撃計画。身軀兵器と呼ばれるMSGも、フォン・マイザーを喪えば、頭をなくした蜥蜴の尻尾と目される。その襲撃を請け負ったのが「違う顔」。彼らの武器はMSGとは全く異なった能力だった。
 東独国内の権力闘争が、次第に世界における東西冷戦の視野に物語の軸を移して行っている。マクロに見ればアフガニスタン紛争の米ソの駆け引き、東独という意味でミクロに見ればソ連は子分のままでいて欲しい。MSGやフライハイトも、世界各国の欲望に巻き込まれながら、お互いを消耗する。その抗争劇の中で、新たな主役となりつつあるフォン・マイザーと「違う顔」の異能ぶりは、物語の新しい切り口として大いに期待できる。

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