藤原緋沙子「龍の袖」
藤原緋沙子「龍の袖」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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北辰一刀流、千葉道場主の娘である佐那。十代にして免許皆伝、その美貌で「千葉の鬼小町」と呼ばれた。道場での手合わせをきっかけに、坂本龍馬と佐那は互いに惹かれる。いつしか二人は両家も認める許嫁となった。旅立つ龍馬のために佐那は着物を仕立てる。しかし龍馬は身につける前に、京都で変死を遂げる。佐那は着物の右袖を龍馬の形見とした。
幕末志士の中でも稀有な存在であった坂本龍馬のそばには、3人の女性がいた。一人は姉・乙女。もう一人は許嫁の佐那。そして晩年を共にしたお龍。その中でも佐那は、千葉道場の娘として家柄も良く、美貌にして腕が立ち、聡明で傑出した女性であった。しかし天下国家に奔走する龍馬に、結局のところ振り回されっ放し。挙句の果てに、お龍に龍馬を寝取られて、近江屋で刺客に襲われてサッサとあの世に逃げられてしまう。さらに幕末の御一新で千葉家も零落の辛苦を忍ぶ。泣いて泣いて泣き疲れた挙句に、踏んだり蹴ったりの人生であった。維新では栄達した者もいれば、より多くの切り捨てられた人々がいる。
それでも佐那の後半生は、龍馬を慕う人々との縁が数多く結ばれる。生前に龍馬は多くの知己に許嫁を自慢して歩いていた。そのことが佐那の存在証明ともなり、彼女の生活をも扶けることになる。好き勝手に生きて、ちっとも佐那との約束を果たさなかった龍馬。それでも不義理ばかりで哀しませた許嫁を、天国から手を合わせながら守っていたのだろう。