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近藤史恵「南方署強行犯係 狼の寓話」

近藤史恵「南方署強行犯係 狼の寓話」。著者初のミステリー小説。電子書籍版はこちら↓
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 初めて立ち会った事件現場で、遺体を見た途端に失神してしまった大阪南方署の新米刑事・會川圭司。おまけにうっかりシャワーの栓を捻ってしまい、証拠品の毛髪を排水口に流してしまう。憧れの刑事着任だったのに、度重なる失態に即座に捜査チームを異動。ペアとなった先輩は美人だが「変わり者」と言われる女性刑事・黒岩花。新しい捜査は、殺された夫・小早川卓郎と行方不明の妻・梓。どう見ても失踪した妻が犯人。しかし黒岩は動機も証拠も不充分として、梓の指名手配に同意しない。そんな中で梓がある児童文学新人賞に応募していたことがわかる。
 この物語の妙味は、黒岩・圭司コンビの捜査と、梓の書いた童話が二本立てで両輪のように進むこと。黒岩・圭司コンビは小早川夫妻がともに再婚であったことから、二人の過去を辿る。そこにはDVの加害者と被害者という苦しみがあった。一方で梓の書いた作品は、グリム童話のような不気味なストーリー。まるで事件を暗喩するような内容に、黒岩・圭司コンビは作者の真意を推し図る。現実と童話が並行する推理劇は、現実と夢が交錯しているかのよう。そして黒岩・圭司コンビの周囲には、二人を元気づける応援団がいる。先輩刑事の城島、警官である圭司の兄・宗司、黒岩と同棲している作家志望の智久。いずれも事件の深刻さと好対照な和み系なキャラクター。DVの悲惨さと、日常の幸せが隣り合わせにクッキリと好対照。

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