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「キングダム」考証→鶴間和幸「始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣集団」

鶴間和幸「始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣集団」(朝日新書)。電子書籍版はこちら↓
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 ちなみに鶴間和幸監修「始皇帝完全ビジュアルガイド」(KANZEN)という本もあり、「キングダム」登場人物たちをビジュアル化している。電子書籍版はこちら↓
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鶴間和幸「始皇帝の戦争と将軍たち 秦の中華統一を支えた近臣集団」書影


 秦が中華統一を成し遂げた理由は、始皇帝(嬴政)の人間力と、特異な登用方法にあった。始皇帝を支えた李信・王齮・桓齮ら将軍たちは、戦時でどう動き、何を成し遂げたのか。映画「キングダム」の中国史監修も務めた始皇帝研究の第一人者が、「史記」や近年出土の史料をもとに、統一戦争の実像を解説。李牧・龐煖(ほうけん)ら、秦に立ちはだかった英傑たちの史実にも迫る(公式解説)。
 やはり「キングダム」の検証として読んでみた。ほとんどの登場人物は実在する。ただその位置付けやキャラ立ちには、かなりの創作要素が含まれている。特に羌瘣が本当に女性かどうかが知りたかったが、そのことについて言及した部分はなかった。ただ実在の武将だったそうなので、実際には男性だったのではないだろうか。

羌瘣

「キングダム」主人公の李信(飛信)も実在の武将。嬴政と同じ年で、若くして燕を滅ぼした功績がある。しかし楚の攻略では大失敗を演じている。そんなに詳しい記述は残っていないが、若き嬴政を救ったあたりの逸話は創作っぽい。

李信(飛信)

その他、王騎は実在したが、先々王・昭王に仕えたそうなので、嬴政の時代には3年しか被っていない。

王騎

桓騎の趙兵10万人の殺害は史実だったそうだ。死するも優秀な将軍であったようだ。

桓騎

その他、王翦も実在していたが、漫画よりもずっと老齢だったそうだ。しかし実質的に楚を滅ぼしたのは王翦。中華統一の最大の功労者。

王翦

楊端和も実在し、数々の戦さで実績を挙げている。ただ「キングダム」のように「山の民」を支配していたかどうか、女性であったかは、定かでない。

楊端和

軍師・河了貂はオリジナルキャラだと言われている。この本を読んでみると「キングダム」は戦いのシーンばかり出てくるが、実際には呂不韋や李斯などの丞相つまり文官の役割が武将以上に大きかったことも実感される。

呂不韋

また秦にとって最大の敵となった趙の李牧。趙王の寵臣・郭開が秦の反間(スパイ)となり、李牧と司馬尚の反逆を讒言。趙王は李牧と司馬尚に交替を命じたが、李牧は拒否して斬殺された。常勝将軍な李牧がいなくなったことが、趙の滅亡を招いた。

李牧

 あと知りたかったのは、中華統一を成し遂げた秦の時代が、どうして15年しか続かなかったのか。嬴政は武将を束ねる能力には長け、信頼も厚く、モチベーションを高く保ったようだ。また外国人の智恵を集める知見の広さも備えていた。ただ中華統一から、僅か11年で急死(死因は不老不死を願って服用した水銀中毒という説あり)。早期滅亡は始皇帝(嬴政)が急死で、後継ぎのお家騒動が発端。奸臣である高官・趙高が、始皇帝の長男・扶蘇を自殺に追い込んで、末子の胡亥を2代目皇帝にすげ替えた。また長く秦に貢献した重臣・李斯や将軍・蒙恬たちを、讒言で陥れたりしたことが主たる原因だったそうだ。その趙高も自分が皇帝になろうとして、3代目皇帝になった子嬰に一族もろとも粛正された。結局のところ前漢の劉邦に降伏した挙句に、3代目皇帝の子嬰も項羽に殺害されて、秦の時代は終焉した。嬴政亡き後は、大黒柱を失って忠臣奸臣みなうち揃って悲惨な最後を迎えたようだ。

嬴政

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