見出し画像

梓林太郎「人情刑事・道原伝吉 信州・諏訪湖連続殺人〈新装版〉」

梓林太郎「人情刑事・道原伝吉 信州・諏訪湖連続殺人」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B09RQK8V2J/
 小さな子供に何度も後をつけられ気持ち悪い、という通報が松本署にあった。道原伝吉が事情を聞いたところ、その子供は古谷智則五歳と判明。母親古谷未砂子との二人暮らしだが、母親は一週間以上行方がわからないという。やがて諏訪湖畔で自殺を装った他殺体で母親が発見される!しかも親子の自宅から現金一億五千万円が見つかり捜査本部は色めき立った!捜査が進むにつれ、その大金は離婚に際して資産家の夫とその両親から受け取ったものと判明するが…。謎が謎を呼ぶ会心の長篇旅情ミステリー。
 この物語の魅力は、ミステリー小説としても優れたものであるが、むしろ捜査を進めてゆく松本署刑事課のメンバーの行動の暖かさにある。被害者の秘密の鍵を握るのが、幼い男の子であるということもあって、刑事課メンバーのケアは厚い。智則に対する配慮やフォローは、単なる仕事の延長線上にあるとは思えない愛情がある。事件関係者の人間関係まで心配るからこそ、事件に関わった人々の心や気持ちがわかるのであろう。だから尋問でも無理やり落とすなどということはない。皆、自ら犯行を口にして自白するのだった。それにしても、お金の匂いに、人は寄ってくる。未砂子に多額の慰謝料が入ったことは、不幸の引き金だった。宝くじ当たった人が、人生狂って必ずしも幸福とは言えないように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?