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今野敏「最後の封印」

今野敏「最後の封印」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓

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 人類は新たなレトロウイルスの進化形である「HIV-4」に遭遇した。感染した人間から生まれた生命は「ミュウ」と呼ばれる。額には特徴的な瘤を持ち、通常の人類にはない特殊なEPS能力を持っている。彼らは人類として扱われず、新たな生物の出現と世界に捉えられた。その存在にパニックになった各国は「ミュウ・ハンター」という殺戮集団を彼らに差し向けた。危険を察知したミュウたちは集団で脱走疎開する。日本にミュウたちを追ってきたシド・秋山やジャック・バリーたちミュウ・ハンター。一方で政府機関も秘密機関を設置して、その下に「デビル特捜」を結成した。ミュウ・ハンターからミュウを守るという建前でミュウを実験材料として捕獲していたのだ。そこに立ち塞がったのが、若く美しい研究者・飛田靖子。彼女はミュウと気脈を通じて、微力ながら彼らを助けようとしていた。

 傭兵と特殊部隊が人類の興亡を巡って繰り広げる激しい抗争。お互いが実戦的かつ特殊な訓練を入念に積んでおり、ありきたりでない戦闘アクションに息を飲む。一方的な事実認識と場当たり的な施策を振りかざす各国政府。本作品の魅力は相闘う者たちが、次第に自らの行動に懐疑を抱き始める点である。そのきっかけが飛田靖子の存在であった。果たして自分たちを殺戮に本当に駆り立てているのは誰なのか? その先には大義はあるのか? 予測できない未来に怯えて、理解できない事象を排除しようとする文明社会。どんなに強者であろうとも、その狭間で人間として葛藤する。物語の大きなうねりは、次第に生物としての人類の進化に一つの可能性を示してゆく。その狂奔の行き着く果てとして、全ての登場人物が迷える仔羊に思える虚脱。予想もつかない大団円が訪れる。

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