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辻真先「アリスの国の殺人」

辻真先「アリスの国の殺人〈新装版〉」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B098JSF95X/
児童書出版の幻想館が新たに立ち上げる漫画雑誌「コミカ」立ち上げるために、強制的に異動させられた編集者の綿畑克二は大いに迷惑であった。自分を抜擢した明野編集長を大いに恨んでいた。しかし昔気質のモーレツ編集長の迫力に、われ知らず惹かれる克二でもあった。そんな克二は夢を見ていた。夢の中で大好きなアリス、そう「不思議の国のアリス」の永遠の美少女と結婚することになったのだ。そんな幸せ絶頂の克二に、チシャ猫殺しの嫌疑がかけられた。その一方で現実世界では、明野編集長が軽井沢の別荘で殺されていた。架空の世界と現実の世界、どちらも密室殺人で、いつのまにか克二は事件の主人公となっていた。そして事件は思いもよらぬ解決を見せる。
 夢とうつつに起こる二つの事件。世界を分けて進行する事件は、少しずつ交錯してゆき、最後はどちらが本筋かわからなくなる。いくつもの仕掛けられた言葉遊び。どちらの世界にも童話と漫画の主人公たちが登場する。夢の世界では作品の主人公たちが大活躍。ニャロメやひげおやじやドロシーが裁判所や結婚式場に、まことしやかに現れる、うつつの世界では漫画家たちがリアルに登場。吾妻ひでお先生が執筆し、手塚治虫先生がサインして、永井豪先生が乾杯している。こう書くとハチャメチャな気がするが、ちゃんと筋が通っているから不思議。アニメのノベライズをしたり、「不思議の国のアリス」を子供向けに翻訳した著者だからこそ著せる世界。そこには漫画や童話への愛がこもっている。その理想の体現が明野編集長であり、出版の商業化に「復讐するはわれにあり」を克二に託したのが、著者である辻真先本人なのであろう。

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