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花村萬月「二進法の犬」、読んでぶっ飛んだ‼️

花村萬月「二進法の犬」(光文社)。電子書籍版はこちら↓
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 家庭教師・鷲津兵輔が、生徒として引き受けることになった女子高生の倫子。彼女の父は、武闘派・乾組組長の乾十郎だった。鷲津は、乾組という組織、十郎の「白か黒か」を徹底する生き様、そして倫子の凛とした存在に、次第に自分の所在を見いだしていく。博打・抗争・性愛という欲望の果てに、鷲津が手にしたものは。全てのひとが心に抱える深い闇を重厚に切なく描く(ここまで公式解説)。
 前の職場で花村萬月「槇ノ原戦記」を担当して、その読後感をSNS投稿した。それに対して業界の大先輩が「花村萬月なら『二進法の犬』が傑作」と教えてくれた。実に958頁の大作。しかし読んでみて一気読み。まさに途方もないエネルギーの作品であった。ヤクザ社会を描いているから、凄まじい苛烈さと残虐さ。それに比肩するのは、赤松利市くらいではないだろうか。しかし登場人物は魅力的で、物語は清冽。中でもヒロインの倫子は、賢く神々しく愛らしい。そして親分の乾、手下の中島、後妻の李、倫子の親友である鋭子、李の娘・麗子、乾組のショバを荒らした西元寺、神戸の鍋井。どの人物も惚れ惚れするほど素敵だ。その対極にあるのが、家庭教師として雇われた鷲津。ヤクザ社会に対する、小市民=保身する卑怯者としての自己否定に懊悩する。そして鷲津とは、われわれ大衆である。対するヤクザ社会を0と1の二進法で表現する見事さ。特に描かれる賭場シーンには、まさに固唾を飲む。読んでいて、激流のドラマに、心が荒海に浮かぶ舟のように揺れる。号泣と嗚咽の果てに描かれる、奈落と希望のコントラストが夕焼けのように美しいエンディング。

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