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宮下暁「東独にいた」③

宮下暁「東独にいた③」(講談社)。
 東西冷戦体制時の東ドイツで「フロイハイト」と名乗る反体制組織が、政府要人や施設を狙ったテロ活動。テロ組織に対して、国家が編成した多目的戦闘群「MSG」。MSGに身を置く美しいアナは、書店を営む日本人のユキロウと恋仲になる。しかしユキロウは別名「フレンダー」と呼ばれる「フロイハイト」の隠れたリーダー。MSGとアナはこのことを察知した。政府に捕らえられた多くのフロイハイトが、監獄からの脱出を試みる。それは巧みな偽装トラップを仕掛けた一斉脱獄であった。アナは葛藤の末、ユキロウに対して、MSGとして対峙する態度を示す。一方でMSGの創設者であるフォン・マイザーが、国民配当制度の施行を宣言する。貴族の末裔の如き優雅な佇まいにして、決然とした言動は、反対制派も含めて国民を動揺させる。
 甘酸っぱい恋は、双方の立ち位置の違いから、お互いの関係を一変する。主人公たちが言うように、人生は一回しかない。人生における願いと、担っている社会的使命。その二つが相剋した時に、人はどちらの道を歩むか選択しなければならない。正と負の葛藤に引き裂かれる若人たちの今後に、何か答えがあるものなのか。そして物語の新たな主役として登場したフォン・マイザー。彼女の唱える社会保障制度は、単なる保障ではなく、アナーキズムの要素も孕む未来思考。その視点はフロイハイト自体を無意味にしかねない存在。MSGそのものが体制であるのか、あるいは組織内反体制と変貌してゆくのか。物語の行方がどこに振れてゆくのか、ますます目が離せない展開となってきた。
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000347372

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