見出し画像

あさのあつこ「おもみいたします」

あさのあつこ「おもみいたします」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓

https://www.amazon.co.jp/dp/B0BLVYQ69X/

 天才的な揉み治療師として引っ張りだこのお梅。十六歳という若さにして美しいが盲である。そばにはいつも十丸という大きな犬が控えている。中堅の瀬戸物屋である今津屋の女将・お清のたっての頼みで、無理な日程を押して何度も施術をした。それはお梅の看立てが、お清に致命的な危うさを感じたからだった。その今津屋に岡っ引きの仙五朗親分が訪う。相生町(現在の外神田)の長屋で、お吟というかつて深川芸者だった女が絞殺されていた事件の聴き込みだ。人の心が感じ取れるお梅と、懐の深い仙五朗親分。二人のお互いへの共感は今津屋の闇と謎に迫ってゆく。

 人の目に映る世界は、光が当たっているからといって必ずしも真実ではない。目の見えないお梅は、見えないからこそ感じ取れる世界がある。それは晴眼の者には触れることができない能力である。だからこそお梅は、患者の心の苦しみや悲しみも鮮明に受け取らなければならない。身体の不調の多くは心のストレスでもある。心の痛みを取り去れば、身体の凝りも重荷を降ろしたように一掃される。お梅に揉まれて爽快になるお清の快復ぶりが、読んでいてこちらも身が軽くなる気分である。巻末でお梅がその境遇に至った経緯が明らかにされるが、お梅を支える魑魅魍魎たちの個性的な存在も、この物語のファンタジックな魅力だ。ミステリー小説でありながら、心と身体の救いに重石を置いた医療譚でもある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?