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鳴神響一「警察庁ノマド捜査官 朝倉真冬 米沢ベニハナ殺人事件」

鳴神響一「警察庁ノマド捜査官 朝倉真冬 米沢ベニハナ殺人事件」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓

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 米沢城址の内堀に浮かんでいた被害者。観光開発を手がける「野々村開発」の社長・野々村良春は後頭部を殴られて即死だった。山形県警の捜査は半年を迎えて、迷宮入り。「地方特別調査官」の朝倉真冬は、特命を帯びて現地入りする。捜査の発端で知り合った米織の職人・篠原正之に紹介されて、偶然にも被害者の娘・野々村雪子が経営する旅館「春雁荘」に宿を取ることになった。そして「春雁荘」に聞き込みに来た米沢県警の二宮刑事から、捜査本部のやる気のない捜査についての不満を聞く。二宮の有能さを見抜いた真冬は、二宮と手を組むことにした。調べるうちに明らかになってきた「野々村開発」と地元との軋轢や利権。

 まるで水戸黄門のように鮮やかに事件を解決する朝倉真冬。しかも県警の威嚇や妨害にも屈しない。たしかに背後に上司である警察庁長官官房審議官・明智光興のご威光がある。とはいえ単身乗り込む未踏の地。身内であるはずの警察に秘匿された情報を手繰り、地元権益に取り込まれていない捜査関係者を探し当てることは至難の業である。現地の人々の心に自然に入っていける人柄と、相手の資質を瞬時に見抜く眼力があってこその、29歳の若さにしての大抜擢であろう。

 ミステリーの結末はゆっくり読んで頂くとして、このシリーズは西村京太郎や梓林太郎のように、紀行ミステリーである。冒頭の米沢藩における度重なる徳川幕府による減封の歴史を踏まえて、直江兼続や上杉鷹山の殖産興業の尽力の振り返りに、米沢への愛が感じられる。そして毎回感じるのが、真冬が旅行雑誌ライターとして地元の人々に接して、事件の解決と共に立場を明らかにせねばならない心の痛みである。すっかり胸襟を開き合った相手を騙していた負い目。真冬には話し相手が苦痛や悲しみを抱えていると、耳の奥の後頭部に痛みを感じる特殊能力がある。自らの詐称にも、自身で痛みを感じているのではないかと心配になる。締め括りには必ず淡い失恋が用意されてる。今回は真冬が好感を抱いた篠原に、雪子との恋路がエンディングで用意されている。渡り鳥の恋には、東京待機でいつも真冬に飯テロされている、配下の今川真人くん(25歳)あたりが終着駅かもしれないなと余計なお世話で妄想している。以上、真冬ファンクラブのレポートでした。

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