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六道慧「公儀鬼役御膳帳 春疾風(はるはやて)」(徳間文庫)

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 膳之五家の務めは「鬼役」なる将軍の毒味。しかし筆頭である木藤家の役目は、それだけでない。徳川吉宗伝来のお庭番を率いての、お上の隠密でもあった。前作「連理の枝」で、主人公・隼之助の許嫁・波留の姉・奈津が殺された五家の一つ水嶋家。娘だけの水島家で奈津に迎えるはずだった婿養子を巡って、隼之助と波留の間にも波風が立つ。そんな中で、父・木藤多聞からは酒問屋の笠松屋に潜入せよとの指示が、隼之助に飛ぶ。九州の大藩で造る白酒を巡って、公儀と叛旗を翻す勢力との間に繰り広げられる暗闘と駆け引き。一方で家督を巡って、隼之助に激しい敵意を燃やす兄・弥一郎に思わぬ情報が流布される。
 第12代将軍・家慶の父である大御所・家斉。徳川家も黒船襲来を前に、残るところ3代。次第に徳川の世も軋み始めている。そんな揺らぎの最前線にいるのが、膳之五家筆頭の木藤家である。重責故に、高い技能が要求される頭。父から、次々と与えられる試練に応える隼之助。そこにわが子を千尋の谷に落とす厳しさと、子を見守る父の眼差し。「巨人の星」の星一徹が、息子・飛雄馬にかけた愛情と重なってくる。まだまだ隼之助には越えねばならない壁がある。それが弥一郎との兄弟の葛藤である。甘さと非情、組織を統率する者が弁えるべき一線がある。シリーズ第3作を迎える本作品は、隼之助の成長の喜怒哀楽である。


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