見出し画像

石持浅海「耳をふさいで夜を走る」

石持浅海「耳をふさいで夜を走る」(徳間文庫)を電子復刻。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B093WJ4MP6/
 岸田麻理江、楠木幸、谷田部仁美。この3人を並木直俊は殺さねばならない。いずれも妙齢の美女たちである。そして冤罪被害者の孤児である。世間の悪意に翻弄されてきた彼女たちを、並木たち支援者たちはずっと守ってきた。しかし彼女たちに覚醒が近づいてきていた。しかし自らの犯行で家族を不幸にはしたくない。だから確実に殺さねばならない。そして決して捕まってはならない。そのためには入念な準備が必要だ。しかし計画はスタート前から、予想もしなかった突発事項から、いきなりイレギュラーに始まった。
 主人公の並木直俊が語る計画殺人そして連続殺人のモノローグ。人を殺傷するということは、そんなに簡単ではない。物事は必ずしも予定通りに進むわけでもない。現場は自分が想像していた状況と、いつもイコールでもない。冷静にして完璧を期したはずの並木は、予期しない現実に狼狽しながら、シリアル・キラーへの道を転がり落ちてゆく。そこには他人の痛みへの感覚鈍麻があり、殺害行為そのものへの異常な性的興奮を伴っている。並木の独白は、どこまでが真実で、どこからが妄想なのかは、読んでいて定かでない。「覚醒」ということばの意味が明らかになる時、結末を知った読後に恐怖感が背筋を駆け上る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?