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原泰久「キングダム」72巻は「番吾の戦い」

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桓騎亡き後、趙軍との戦いは王翦将軍に引き継がれた。秦軍と趙軍は「番吾の戦い」に臨む。趙軍30万に秦軍25万の兵が、趙北部の平原で激闘する。ここでも李牧の戦術は冴え渡り、飛信隊や王賁隊は李牧のいる番吾城攻めに誘い出されて、本陣から引き離されてしまう。手薄になった王翦の本陣に向けて、趙軍三大天の一人である青歌の司馬尚将軍が初めて姿を現す。巨大にして無双の強さを示す、青歌の頂点に立つ将軍。乱戦となった戦いは、王翦が討たれるか、司馬尚が討たれるかの白兵戦と化す。王翦と司馬尚を守るため、双方の後方軍が支援に突っ込んでくる。首が飛ぶ、腕が捥げる、血が舞う。お互いに、どれだけの戦士が斃れるかという惨状を呈している。
 相変わらず李牧の知略は冴えている。飛信隊はいくら強くても、駆け引きすれば李牧の掌の中に転がされる。血みどろの戦いの連続ではあるが、清涼なエピソードが二つ折り込まれている。一つは秦軍の倉央将軍と大女兵・糸凌の切ない恋バナ。もう一つは趙軍のカン・ソロ将軍とジ・アガ将軍の若き友情の契り。あとは秦軍と趙軍の戦いに巻き込まれた、青歌の苦悩も伏線となっている。趙における青歌は、秦の楊端和率いる山の民と同じ異民族。それぞれが李牧や嬴政に助太刀したことで、ずっと戦乱に巻き込まれる。また当時の戦争は刀、槍、矛などによって行われる消耗戦。現代のように核兵器もないし、ドローンや無人機攻撃も存在しない。コンピュータやAIが支配する戦いと違って、人と人との感情が士気や戦況を変えてゆく血の通った世界である。凄惨な戦いではあっても、現代の戦場と比べて人間味が感じられる時代である。

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