見出し画像

西村京太郎「長野電鉄殺人事件」

西村京太郎「長野電鉄殺人事件」(トクマノベルズ)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B09N6WL26N/
 長野電鉄湯田中駅のトイレで佐藤誠の刺殺体が発見された。佐藤と待ち合わせをしていた恩師の木本啓一郎と佐藤の二人はかつて松代大本営跡の調査をしたことがあったのだが、佐藤が大本営跡近くで二体の白骨を発見したことを突き止める。一方、十津川警部と大学で同窓だった中央新聞社会部記者の田島は学生時代に木本の講義を受けていたことから事件に関心を抱き取材を始めたものの、突然失踪した。事件の背後には戦時中の暗い歴史があった。
 西村京太郎先生が描く渾身の戦後史。ミステリー小説ではあるが、この作品はむしろ暗黒の戦後史の告発である。本作を読んで西村京太郎先生がミステリー作家であると同時に、偉大な歴史研究者であることを知った。戦前を知らない戦後世代は、八紘一宇を唱えた大東亜戦争を「欧米の植民地支配からのアジア解放」と一面では肯定しかねない。しかし現実にドイツでは21世紀に入っても賠償が続いている。「自分には関係ない」「祖父たちの代の出来事」という言い訳は通用しない。全ての戦争責任が清算されたと任じる日本国民に対して、最も秘匿された国家犯罪の史実を明らかにしようとする十津川警部。それは戦争に乗じて、アジア各国にアヘン汚染という亡国の危機をもたらした、わが国の罪状への懺悔に他ならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?