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奇譚集ーエピローグー

「じーさん、それは本当にその女の世界がおかしくなっていたのか?
それとも、その星図盤が女をおかしくしたのか、どっちなんだ?」

じーさんの語りを聞いて、俺は思ったことを素直に口にした。
なぜならじーさんは最初に言った。話は3ヶ月前に遡ると 。
しかし、今じーさんの話自体は2、3年前のように感じられる。
まるで、その星図盤を持った女だけの時間軸が狂っているようだ。

「俺のところにこれが届いた時は、ちょうど3ヶ月前だ。
話を聞いたのもそれぐらいだ。しかし、その彼女の中では今が10年後の世界になっている。憶測だが、今も彼女の時間だけが流れがおかしくなっているんだろうな。考えられるのは、星の時間と彼女の時間が合ってしまったということだ」

「つまり、星に魅入られてしまった結果、俺たちとは違う時間を感じるようになった。
でも、じーさんの話だけじゃその女は、“星図盤をみていただけ”だ。あとは趣味で占星術をはじめただけ。それを手に入れてから星の動きとともに会う人会う人の未来が見えるようになった。星の動きと同じような動きが見えるようになる。
ナンセンスな上にあまりにもおかしすぎる。

占星術的考え方では、天体がそれぞれの役目が合って、それが人の生まれた時間、場所に影響している。世の中の大きな出来事も天体的にみたら、実はエネルギー上では合っているなんていわれている。が、専門家である俺からいわしてみれば、星はそこにあるだけ、というか星に見えているだけで惑星や宇宙のゴミだ。綺麗、汚いなんてそんなものは関係ない。
後、占星術しかり占いは、元々は体系的な学問だ。学問が今はあてるものになってしまっているだけだ。古来より星の動きで人は未来を、科学を、天文学を研究していた。先人たちの努力の結果が今の俺たちを支えているんだ。
なんて、じーさんに言っても仕方ないか」

途中から語気が強くなっているのを感じた。それは実際に教えている身の上としては、こんな荒唐無稽な話があってはたまるかという気持ちがある。しかしここに物があり、じーさんが語る話がある。そして、実際に俺自身もそういった別の世界があるのは知っている。
それだけである意味答えは出ている。のだか認めたくない。
俺は頭をガシガシと触った。俺の様子など何も気にせずに話を続ける。

「専門家のおまえには、もちろん馬の耳に念仏だ。だ。が、俺のところに来たということは、これは科学の力だけじゃ解決できないということだろう?」

じーさんはうっすらと笑って茶を啜る。新しく入れた緑茶は、程よい温度になっていて飲みやすかった。

「じーさんの話だけじゃ矛盾だらけだ。それじゃあまるで荒唐無稽な夢の話だ。
‥‥と言いたいが、これは“奇譚集”に載せる予定の話だ。
それぐらい荒唐無稽な話ぐらい受け入れらるさ」

何せ“奇譚集”はそういった変な話を集めるのだから。
世の中には“半端“なものが存在する。それが人の世に出てきて、半端に人に影響する。半端に影響した、その人間がどうなるのか、わからない。
半端に影響されたものから復活するものもいたり、立ち直れないものもいる。
俺はこの星に狂わされた女がどうなったのか、前者か後者かわからない。

俺の願いは立ち直ればいいとは思う。そして、悪い夢でも見たと思って忘れたらいい。
“半端”なものと関わったことなど、すぐに忘れてしまうのが、“半端”なものとの関わり方だ、しかし、後者だった場合はどうするのか。立ち直れなかったら?と聞かれたら、俺はこう答える。
それはその人間たちの人生だ。俺に関われるのは、俺がいる世界のみだけだ。
誰も人が人を助けることはできない。結局、自分自身でしか救うことはできない。
俺はこの“半端“なものと関わってしまった人間が、前者であることを願うばかりだ。

「これはどうするんだ?この“半端”な星図盤は?」
じーさんに尋ねると、「わかってるだろう」と少し呆れながら腕組みをして答えた。
「意外にもこういった変なものを集める人間はいるからな。買い手はつくだろう」

「だろうな‥‥。どうしてじーさんの業界は、そういった変な物を集める人間が出てくるんだろうな」

「さぁな?」

じーさんは笑うだけでそれ以上は答えなかった。

                  了

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