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かあさんはかあさんのままでいい

「かあさん,もうあの学校には行かない」.ベッドに伏せながらきっぱりと告げた息子.いじめにあったわけでもない.授業がぎっちり詰まる中,部活にも打ち込んでいた彼は,大会を終えた翌日からぱたりと学校に行かなくなった. そしてはひたすら眠っていた.「行かない」と身体を硬くする彼に,ただならぬ何かも感じた.「何してんだろな,オレ」とベッドの上で呟いた言葉も胸に響いた.

 一方で,夜中にネットゲームを楽しむ息子に腹を立てたこともあった.私の経験上,「学校に行かない」という選択はなかった.途方にくれて,「かあさんはあなたに何をしたらいい?」と息子に尋ねたことがあった.すると「かあさんはかあさんのままでいい.普通にしてくれてればいい」.高校2年の冬,受験はどうするのかなどと焦るのは親ばかりだったようだ.

 小さい頃から家を行き来していた保育園からの友人は,変わらず家に寄って息子とまったり過ごしていったし,息子も,中学や高校の友達と出かけたり, 保育園時代の仲間の集いに参加したり,「学校に行ってない」自分に臆するふうでもなかった.

 私の周囲も「普通」だった.「息子が学校に行かないって言うんだ」と職場でこぼすと,腫れ物に触るふうでもなく,「私も行かなかった」「心配かけて悪 いな,と思っても親にはちゃんと言えないんだよね」「まあ,でも高校は卒業しといたほうがいいよ.自分は苦労したから」という経験者の言葉にも支えら れた.

 そんな時を過ごしつつ,結局彼は,高校3年生になる時に転学,何とか単位をとり進学先を決め,親元を巣立っていった.
    

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さいたま見沼よみさんぽ Vol.31(公益社団法人やどかりの里,2019)

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