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誕生日に愛の伝道マッサージ師と出会う

 昨日は私の誕生日であった。

 日付またぎで仲良しのポジさん(ポーランド人のおじさん)とドイツ人女性の友人にメールを書いていたので、ポジさんにチャットアプリのほうに「メール書いたから見といてくれよ」と送り、ついでに誕生日だと告げると、おしゃべり属性のポジさんの勢いが止まらず怒涛のチャットメッセージに加えてポーランドの誕生日の歌を歌ってくれた。私もポジさんの誕生日には毎年歌ってるのでお返しだろう。

 で、その時の会話の内容が「豚は幸運を連れてくる」ってもので、まあ豚というか猪なんだけど、最近の私の同棲相手の動画を送ったのだ。

 床下に住み着いた猪吉。夜帰ってきて朝出かけるてまた戻ってくる。
一人暮らしの孤独からすっかり親近感を覚えていたのだけれど、この写真の時、めっちゃ話しかけてたら明らかに猪吉が困惑

「え、なんなん? この人間? なんで一人でしゃべってんじゃ」

みたいな感じ。

 で、これ以来戻ってこなくなった。
 猪が人慣れしてて追い払っても逃げないとは聞いていたけれども、逆にめっちゃフレンドリーに接すると困惑して逃げることもあるんだなぁと思った。

 しかし猪吉も来なくなり、話し相手もいないし寂しい!!!
 オンライン授業より対面授業派の私は、やはりチャットより生身の誰かと話したい!!!!

 そう思って急に思いついたのがマッサージ。

 誕生日だし、体すっきりさせたいし、何より人と話してぇ!!!って心境で、とりあえずこの島のマッサージを検索すると、なぜか真っ先にヒットするのが謎の外人。

 しかもその口コミがすごくて、耳を触っただけで問題がわかるとか、とにかくすごいとかで、何より惹かれたのは強めのマッサージってこと。そりゃ外人だしさぞかし強いんだろうと思った。なんか力強そうなおじさんだし。私は強めのマッサージが好きなのだ。

 でもマッサージ予約した直後に地元から湿布と誕生日プレゼントを送ってくれた人がいた。だからそのマッサージはやめてもいいんじゃないかとも思って、予約取り消そうかとも思った。

 でもなんか興味あったし、まあ予約の時も時間や金額希望も聞かれなかったし、時間おくれても全然OKみたいなゆるっとした感じだったし、前日に給料のリレー振り込みでなんか2700円ぐらい多めに入れてもらってので3300円45分で肩でももんでもらうかーと思っていた。

 あと電話の時に島方言まで出るぐらい日本語が上手かったので、本人なのかどうかも確かめたかったし、日本語上手くなる秘訣とかも聞きたかったし、なんか教える機会ないかとも思ったし、まあぶっちゃけそれよりなにより人と話したかったんじゃ!!!!!

 とまあ、なんとなく予約取り消ししたくない感じで誕生日当日。

 誕生日ぐらい試験勉強を休もう!と思い、ちょっと贅沢なものを食べよう!と思い、まず昼に何を贅沢したかというとこれである。

 島に唯一のモスバーガーで、これにさらに食後のコーヒーを含めて二千円を使う。なんでこんな高くなるかというと、すべて単品だからであろう。
 私はオニオンフライは好きだけどモスのポテトは好きじゃない。ケンタッキーのポテトも。どっちかというとマックとかの細いのが好きなのだ。だからオニオンとポテトとドリンクのセットはあったけど、安いからって好きじゃないものつけて食べるんならオニオンだけ食べたい!誕生日だし!となった。

 このモスが入ってる大型ショッピングセンター(そこまで大きくない)の二階にマッサージの店がある。時間になるまでモスでダラダラしていた。

 で、時間になり行くと、どうやら電話に出たのはアシスタント説も覆されて、本人らしい外人のおじさんがいた。

いきなり私が言ったのは、

「こんにちは! 3300円で45分と思ったけど、ここでは30分になってるんですね! 私は今日誕生日だからサービスしてください!」

である。

 そう、このおじさんはいろんなところでマッサージをしていて、その場所によって料金設定が微妙に違うのである。とはいえ、私がいつも地元で頼んでるマッサージが個人的親交により破格に安いのであって、そのマッサージの先生にも聞いたけど、ここのまっさじは「てもみん」ぐらいの設定で別に高くない。それでもこの自分の図々しさよ……。

 しかも私は土禁であるのも気づかず、(なんでこのおじさん、裸足なんだろう)と思いながら靴で上がり込んでいた。おいおい、おまえマジで日本人かよって感じの登場の仕方である。いきなり予約時間に少し遅れた上に、まけてくれよと言った上に中まで靴で上がり込む。

 それなのになぜかこのおじさんは私の印象がよかったらしく、

「あなたはかんじいいです」

と言ってきた。

 最初何言ってるかわからなくて「漢字」なのかと思ったけど、何回か聞き返して、全体の印象がいいということを言っているのがわかった。

 そして早速施術。

 耳を触られると、携帯やパソコンの疲れがあることや睡眠不足であること、小さい頃姿勢が悪かったことなど色々一発で当てられた。

 しかもすごいのがふくらはぎで人格がわかるってやつで、ある島の夫婦が離婚寸前できたとき、旦那さんのふくらはぎが奥さんを愛していると言ったそうで、それを奥さんに伝えて、一組の夫婦の離婚の危機を救ったのだそうだ。

「ちなみに私のふくらはぎは何と言ってるんですか?」

と聞くと、

「ある親子が友達のところに行きます。お母さんは友達のお母さんと話します。子どもは子どもの友達と話します」

と言われた。
 要するに、話したいと思う相手と話す必要性があって話すってことで、その夫婦の時は旦那さんが誰にも言えない思いを伝えたいってのがあって、それを聞く必要があったから聞いたってことなんだと思う。

 それでも私の体から感じたのは「人格がやさしい」ってことらしい。
 私は愛想笑いとかもしないし、ぶっきらぼうだし、基本第一印象怖いと言われたりして悪いので、最初から「やさしい」言われることはほとんどない。ふくらはぎがそう言ったんだろうか……。

 このように話し方や表現がやたら物語的というか例えが多いんだけど、案の定詩を書いたりもするそうで、本業はジャーナリストだと言っていた。でもそれじゃ食べていけないから師匠についてマッサージの技と知識を得たのだと。

 経歴がおもしろくて、故郷のウルグアイで宣教師になるための勉強をしていて、本来三年でいいところを七年も修行したのに、七年目で宣教師になることに興味なくなってすっぱりやめたそうな。
 で、五か国に住んで島に来たのは、息子さんがたまたま旅に来てこの島を気に入ったから「よし、移住しちゃおうぜ」みたくなったらしい。この息子さんとは仲良くて二人で長崎まで旅行しながらずっと歴史の話をしたりするらしい。

 そもそも歴史や文学が好きで、日本にあるまだ翻訳されてない歴史的文献をスペイン語に翻訳したいそうだ。

「でも、そういったことに価値があると思っている人は少ない。お金を出す人がいない。だから日本では別の仕事をしなければなりません」

とまあこういうことだった。

 しかしこの人話せば話すほど自分と似てるってのがわかる。要するに自己開示がすごいというか、初対面でもかなり自分のことを話す。奥さんとは3年の文通の果てに結婚して当時は友達に馬鹿にされたけど現在結婚27年目とか性格は真逆だけど何度生まれ変わっても一緒になりたいとか、今愛についての詩を書いてるとか。

「言語と歴史は人間が身につけておかなければならない教養だ」

という私の言葉にもかなり共感してくれた。

 根っからの陽キャで五か国語話せて、自由人で、歴史や思想にも詳しくておしゃべりってところがポジさんにそっくり。つまり私と気が合うということ。

 マッサージの腕もすごくて、痛かったけど、これはすごいってのは一発でわかった。しかも話しながらでも手は休めないし、30分なんてとっくに過ぎてる。

 そして終わったあと、体がすっきりしたとき、なぜか全身鏡を運んできて私の前に置いた。

「あなたはもっと自分に自信を持ちなさい。あなたは素晴らしい人です。自分をよく見なさい。縮こまることはありません」

 さすが宣教師っぽいこと言ってるぜと思ったけど、要するに私は子どもの頃170センチの身長が嫌で小さくてかわいい子に憧れてたし、猫背だったのだ。そのことを言ってるのだと思う。

 あと睡眠不足の理由に関してもストレスと言われ、

「あなたは庭に熊がいますと聞いたら眠れますか? でもその熊がいなくなったとわかれば眠れます」

ってまた詩的な表現。

 つまり熊ってのが悩みで、つねにそれに脅かされる心配があるから眠れないってこと。それでいうとやはり自分の中に一番にあるのは「お金」のこと。
 実際にそれで何か生活困ってるのかというとそんなことはなくて、貯金はないけど人という財産があるので、周りの助けられて安穏と暮らしている。でも来年には今の仕事を辞めてること、そのあとどうすればいいのかってこと、決まったお金が入ってこないことへの不安など、確かにある。

 そういう話をすると、ある女性の話になった。
 その人は大学で専門的に文学や歴史を学んだし優秀な人だけれど、彼女の持つ知識を活かせる仕事がなく、島のスーパーで働いているらしい。
 それが嘆かわしいことだと言っている。

 必要とされる職業とその人の持っている才能や能力が一致しないということ、歴史や文学などの知識に対して報酬を得られる道が少ないということがおかしいと言っている。

 で、なぜか私に対してマッサージを教えたいと言ってきた。
 一日に二人、一時間ずつの施術をすれば充分生活できるし、どこでもできる仕事だと。時間が充分あって、お客さん来ない間は創作や好きなことをしちえるという。
 弟子の女性の一人は旅人で、行く先々の旅館やフリマでマッサージをして渡り鳥のような生活をしているらしい。
 自分は家族もいるし根を張らなきゃないところもあるから、移住地域でテナント借りてやったり出張したりだと。どうやら「真逆の性格」な奥さんがきっちりマネージメントしてるっぽい。

 最初、その技術を習うのに正規にかかる金額の半額でいいと言ってきたけど、私はそんなお金はない。普通の人なら安い金額だろうけど、なにせモスバーガーがごちそうな生活なんだから、無理だと即断った。

 でもその後も色々話しているうちに、なぜか「あなた、おもしろい」とか言われたり、あと属性同じなので基本この人もいい意味でおせっかいというか、これも縁だから何とかしてやりたい病が発動したんだろう。

「私すぐ教える! あなたお金出来た時、できる範囲で奥さんにお金払ってくれればいい」

と言ってきた。でもこの人私みたいにただで人に何でもしてやるところあって、これまでにも奥さんに怒られてきたというし、いつ払えるかもわからないお金のことで奥さんともめてもたいへんだろうし、やっぱり私は断った。

するととうとう

「じゃ、もうお金いらない! ここで営業時間前に二時間教える! 12日間。あなたがすることはやり遂げること! できますか!」

と言ってきた。

 この仕事は安定しないけれども、副業にはなるし、この知識と技術を得ることで身を助けることになるからってことだった。

 まあ簡単に言うと、話しているうちに意気投合したというわけだな。

 基本、騙されやすいらしくて奥さんに管理してもらわないとダメってところも同じ属性だし、何しろポジさん含めてこれまで仲良くなってきたおじさんたちと同様、気の合う人ってのは会った瞬間にわかることが多い。

 そんなわけで私はこの愛の伝道マッサージ師を師匠と呼ぶことになる。
 マッサージの練習台は奥さん、息子、娘、総出らしい。
 腕とか指とか調べられて、マッサージできる指の形と腕らしい。
 そして私は師匠同様、人から感じ取る共感能力が高い。もしかしたらふくらはぎに語り掛けられるなんてこともあるかもしれない。

 師匠はスペイン語教室も近々やると言ってるけど、言語に関しては自分で教科書で勉強しろと言われている。それよりおまえはマッサージの知識と技術を学べと。何より、愛を学べと。
 なぜそこに愛??? わからんけど、愛を発揮させたいらしい。

 まあ要するに気に入られたってことだな。理由が「おもしろい人」ってことで。あとよくわからんけど、私が自分の中の「愛」を発揮できてないってところも大きいんだろう。なにせ「自分を愛してますか?」に答えられないところからこの話になってきたのだから。

 でもちょっとわかるのは、マッサージも「愛」ってこと。これまでいろんな人のマッサージ受けたけれども、愛のないマッサージをしている人は人を治癒させる力もない。うまくいえないけど、その人の人格とか性質も関係していると私は思っている。実際、変な人に気功マッサージみたいのされて気持ち悪くなって吐いたことある。

 何にしても私はこの師匠のマッサージの後、体がすっきりしただけじゃなく、元気に明るく本来の自分らしいエネルギーを取り戻した感じがした。

 当初の目的が孤独に病みすぎて人と話したい!だったんだから、孤独解消な上に元気になったんだから万々歳である。

 料金に関しても、私はこれだけの時間、これだけの結果を得たのだから一時間の料金5500円払おうとしたら、

「いりません! 私は最初に3300円OK言いました!」

と言われ

「いや! やってもらって価値を感じたから払いたいんだ。私はお金なくても価値あるものには払いたいんです!」

と言い返し

「いいえ! 私はいりません! 私は頑固です!!!!」

と言い返され、

 結局払う払わせないの攻防の果て、3300円に。

 さらには師匠器用なもので、その場で針金アートを作りこんなのをくれた。


そして私はディナーを準備をすべく買い物へ

車を停めていたところの目の前の車のナンバーが私の誕生日の日付。
うん、この流れはまちがってないなと思えた。

夜はザンギ(北海道弁で鳥のから揚げ)名人&プリン名人のザンギ&プリンと決めていた。そして何より誕生日だからこそ買いたかったこれ!


 大好物の桃! しかも桃太郎の岡山の桃!
 二つで千円! なんていう高さだ!ぐはぁ!!!!

 中国では果物屋の店主に「桃先生」と呼ばれるぐらい、桃好きで毎日いろんな種類の桃を食べていたけれど、今果物なんて日本じゃ高くて買えない。

 この日はアボカドも買った。

 誕生日だから!!!!

 日本の野菜と果物は本当に高いと、夜誕生日メッセージをくれたアン先生も嘆いている。

 あとこの島来てはまったブリの刺身など買った。

 幻のザンギを食べたがっていた隣の娘さんにも帰省中かどうか連絡し、いたので鶏肉なんと四パック購入。道民感覚なので、足りないよりいいだろうとまた買いすぎた(結果ラーメンどんぶり二杯分ぐらい残る)。

 何よりうれしかったのは、隣の娘さんが久しぶりに来てくれた上に一緒に酒を呑んでくれたことだ。
 人と飲むビールはなんでこんなにうまいんだ!!!!

 もううれしくてうれしくてうれションするぐらいの勢いでしゃべることに忙しく、手も動かさず、今回もまたほとんど働かせてしまった。申し訳ない。これで来てくれなくなるとまた孤独に病むので、今度はしっかり準備した上に正座してお待ちしようと思う。

 で、愛の伝道マッサージ師の師匠の話をすると、今、試験勉強期間なのに大丈夫かと言われた。

 いや、むしろ最近孤独に病んでていろんな人にLINEしまくり、返事がないことにさらに闇落ちしてたぐらいなので、定期的に決まった時間だけ話せる人がいるのはいい気分転換になるかと。

 実際、勉強疲れしていたのが、昨日人と話したことでまたやる気も出てきたし元気になったので。。

 結局プリンは夜中に作った。

 あと誕生日にしたいこと最後の企画が泡風呂。

 風邪ひいてるのに誕生日おめでとうの電話をくれた福岡の中国男子と電話しながら、シャワーでせっせと泡を作るが、なぜか漫画やアニメのようにはならない。

 それでも風呂の中で体を洗うという、ふだん銭湯や温泉じゃできないことを思い切りできて楽しかった。

 そんなわけで、猪吉はこなくなったけど、代わりに愛の伝道マッサージ師と出会ったし、中国の学生たちやポーランド、ドイツ、日本の友人たちにお祝いメッセージももらって、よい誕生日であった。


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