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【エッセイ】こたつ(Ⅲ) 

 うちは十年前まで掘りごたつだった。台所のガスコンロを点け、火起こし器に乗せた炭が真っ赤に焼け火花が飛び散りはじめたら即座に茶の間へ向かい、ステンレス製のトングを用いて床下の穴に慎重に入れる。そして金網で蓋をする。早起きした者の役目で、親や祖父母の代は手慣れた様子で淡々とこの流れをこなしていた。布団を開いて出入りを繰り返しても底に溜まる熱気は逃げにくく奥行きを持つおかげで足の指先から腰までしっかりと温まれる。椅子に腰掛けるときと同様に座れるので腰に負担がかからず長時間に渡って同じ姿勢を保ったまま、自然の力を身体を通して感じながら快適にくつろげる優れものだ。灰を被せて消火を行うのだが、完全に火が消えるまで見届けないといけないわけで有事の際は、焦る。東日本大震災を経て安全性に懸念を抱き、家族間で話し合って、やむを得ず電気に切り替えたが、スイッチの入を押すだけで点火するありがたみを日々噛み締めてる。