恋模様^^

 彼女(以下桜とする)は同級生だった。僕が高校生の頃の話である。僕は内気な性格で、人と話すのが得意ではなかった。しかし桜と話すのは好きだった。桜は、休み時間に読書をしている僕に「何読んでるの?」と話しかけ、僕が薦めればその本を読んでくれた。そして本の感想を喋ってくれた。宿題を忘れたときは手伝ってくれ、調理実習のときは作ったものを食べさせてくれた。そんな桜を、いつからか僕は授業中でも休み時間中でも、常に目で追うようになっていた。
 僕は桜が好きだった。友人としてではなく、1人の女性として。やがて学年が変わり、クラスが分かれて話をする機会がなくなっても、僕の気持ちは変わらなかった。僕の中で、女性は桜1人だった。

 学年には、遠藤という男がいた。強者にへつらい、嘘ばかりつく人間であった。僕は中学生の頃から遠藤が嫌いだった。
 2年生に上がってしばらくしたころ、ある噂が僕の耳に入ってきた。遠藤と桜が恋仲であると。僕は人生で初めて味わう猛烈に嫌な気分に襲われた。桜が、あの遠藤と?
 そんなはずがない、桜は遠藤なんかとはタイプが違う。あの2人が付き合うなんてあり得ない。そう信じたかったが、火のないところに煙は立たない。僕は胸に嫌な感じを抱えながら、しばらくの学校生活を送った。
 
 その高校は最寄りが寂れた駅であり、駅からも少し歩く距離にあった。必然的に、ほぼ全生徒が電車通学となる。
 ある日僕は電車の中で桜を見かけた。桜は1人で本を読んでいた。声をかける勇気のない僕は、それをただ眺めているだけだったが、それだけでも安心感というか、漠然と良い気分でいることができた。
しかし、平穏は長くは続かなかった。少ししてから、遠藤が現れた。遠藤は桜の隣に腰掛け、彼女と話し始めた。不快、深い落胆を僕は感じた。あの噂は本当であったのか。あの桜が、なぜ遠藤なんかと──
 落胆に身を包まれながらも、僕は桜たちから目を離せずにいた。
 観察をしていると、なんとなく違和感を感じた。2人の雰囲気が、僕のイメージする恋仲のそれとは異なっていたからだ。遠藤はなにか必死そうに桜に話しかけ続け、桜から遠藤に話しかけることがない。むしろ桜には少し遠藤を迷惑がっているような感じが見てとれた。
 僕の中である種の期待が膨らむ。やはり彼らは恋人同士ではないのではないか。噂はただの噂にすぎず、桜に恋人などいない。僕は真相を早く突き止めたかった。この後には試合も控えている。この落胆と期待の入り混じった精神状態は、あまり良いものではない。
 電車が最寄り駅に着くと、桜は遠藤と別れた。通学路は同じなのに、わざわざ別れたのだ。僕の中で、期待感は最高潮に達していた。僕は勇気を振り絞って、彼女に話しかけた。一緒に学校まで行こう。桜は少し驚いたような顔をしたが、一年生のころに僕に向けてくれたのと同じ笑顔でいいよと言ってくれた。
 少し歩き、僕たちは通学路の途中の麦畑に入った。麦のおかげで、周りの人はあまり見えず、周りからも僕たちはみえづらい。しかしここを過ぎると、高校まではすぐそこだ。僕は不安に震えながらも本題に入らなければならなかった。
あのさ、と僕は言う。桜は少し目を広げながらこちらを見る。「遠藤と付き合ってるって、本当?」

──その直後のことはよく覚えていない。僕は全身に打撃痕ができ、息をするのも辛かった。ここは高校生最強の闘士を決める、陰陽トーナメント2回戦。パンクラチオンの使い手である涙川を相手に、僕は人生一番の苦戦を強いられていた。しかし負けるわけにはいかない。孤影流の最後の使い手である僕は、こんなところで負けるわけにはいかないのだ。最後の力を振り絞り、僕は孤影流奥義「羅刹掌」を繰り出した。

──結果、僕は負けた。(ぼくの本名)、2回戦敗退というアナウンスが流れる。僕は疲れ切って入場口へ戻る。桜が声をかけてきた。「負けちゃったね」いつもの笑顔で僕に言う。僕は心身ともに深いダメージを受けていた。桜が僕に向けた笑顔は、登校中の僕の問いかけに対して「あいつ優しいから」という言葉と共に返ってきた笑顔とは、異なるものだったから。


 という夢を見ました。唐突のトーナメント展開は夢ならではの支離滅裂さですね。サプライズニンジャですよ。ちなみに本当にこの内容の夢を見ていました。嘘0%です。夢の中でも負け組のぼくなのでした。 
 ではまた。


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