読売新聞の記事の書き方(あるいは読み方)(2)

 「防衛本格強化 5年以内に/研究 産官学一体で/有識者提言」という見出しの読売新聞の記事(2022年11月23日)から見えてくることの「つづき」。

 「産学官」ではなく「産官学」。この「産官学」という表現は、最近の読売新聞に非常に多い。私はずっと気になっている。
 「産学協同」ということばはかなり昔からある。産業と学問が協力して、新しいものをつくる。「学産協同」ではなく「産学協同」であるのは、あくまで「産業」が主目的であることを意味しているだろう。大事なものから順番にことばを並べる。「日米関係」「日中関係」という表現で「日」が先に来るのは、日本では日本が重要だからだ。「産学官」と言ったとき、「産業の発展に学問が協力する、それを官(国)が応援する」である。つまり、国が応援しないことも、数限りなくあるわけだ。
 軍事産業において「産官学」が協同するとは、軍事産業は「国防(安全保障)」という国の政策に直結するから国が協力すのは当然(たとえば予算を出す)。国が安全保障をリーズするの当然だが「官産」という順序にならないのは、「官」には「製造能力」があいからである。武器をつくるのは、あくまで「産業」。「産」なくして武器は存在しない。だから「産官」。新しい武器には新しい科学(学問)が必要だから、ここでも本来なら「産学官」という構造になるべきなのだが、「学者」のなかには戦争に協力すべきではないという反対意見がある。武器の分野で「産学協同」はなかなか難しい。その「困難」を「官」の力でとっぱらい、むりやり結合する(結合させる)というのが「産学官」のねらい。読売新聞は、この政府(官)の主張を後押しする形で「産官学」をしきりにつかう。
 「有識者会議」というのは、いわば「学者」のあつまり。「学」の代表になるかもしれない。政府(官)が耳としている問題を「学問」という客観的で広い立場からみつめなおすために「有識者会議」がある。つまり「政府の暴走」を防ぐねらいがある。政府としては「有識者会議」が「客観的」な価値場からこう言っている、それに従って行動している、政府の独断ではない、というために、「有識者会議」を利用するということが、ここから起きる。
 その「有識者会議」は「5年以内に台湾有事がある」という仮説を受け入れ、支持している。そして、そのためにアメリカからトマホークを買うという政府の方針をも後押ししている。ところが、「予算(財政)」に関しては、きちんとした「提言」をしていない。ここが、今回の「提言」のほんとうはいちばん重要な問題点であるといえるかもしれない。
 三面の解説「財源は「政治の責任」」という見出しの部分を、もういちど読み直してみる。「財源」について、どういう議論がされたのか。(番号は私がつけた。)
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①財務省は防衛費増額にあたって増税を目指し、報告書に具体的税目として法人税を例示してもらおうと根回しにあたったが、
②有識者は慎重だった。国民負担に直結する税の議論は、政治が主導し、国民に理解を求めるのが筋だとの考えからだった。
③報告書では、「国民全体の協力が不可欠であることを政治が真正面から説き、理解を得る努力を」と政府・与党に呼びかけた。
④「特定の税を今から決めるのではなく、幅広く検討することが重要だ」(佐々江賢一郎・座長)として具体的税目には言及せず、「幅広い税目」との記載にとどめた。
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 この記事を読むかぎり、
①財務省が「法人税増税」を「提言」に盛り込むよう求めた。
②有識者会議は、その要請を拒んだ。「税」は国民負担に直結するから判断したくない。国の責任でやってくれ、と。
③は②の補足。
④は「法人税限定」ではなく「幅広い税目」でという「提言」である。
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 これを読みながら、私が思うのは「法人税増税」は「国民負担に直結する」かどうかということである。私は防衛予算に限らないが、法人税をアップすれば、その収入でいろいろなことができると思う。社会保障も充実するだろう。なぜ「法人税増税」を有識者会議がいわないのか、という疑問である。
 記事宙に「根回し」ということばが出てくるが、そしてその主語は、ここでは財務省だが、「根回し」をしたのは財務省だけではないだろう。「有識者」の提言とは言うが、それは実際は「いろいろな根回し(主張)」を「有識者」が「調整」したということにすぎないだろう。
 「台湾有事」が「5年以内に起きる」とか「トマホークが必要」という意見(文言の盛り込み)で「一致」してしまうのは、それは「有識者」が独自に考えたことではなく、つまり、「根回し」が問題なく進んだからだろう。
 なぜ「法人税増税」を「提言」できなかったのか。
 読売新聞が「主語」として書いている「財務省」(のだれか)以外に、「根回し」をしているひとがいるからだ。そのひとは書かれていないが「別の提案」をしたのである。もっと「国民負担に直結する」税をアップする方がいい、「幅広い税目で増税する」方がいい、それを盛り込んでもらいたいと「根回し」をしたのである。
 その「根回し」がきいて、④になっている。
 だいたい、「法人税増税」をいま提言すれば、企業が一斉に反発する。「財務省」は企業が反発しようが関係ないだろうが、「国会議員」は企業が反発すると「政治献金」を受けられない、選挙支援を受けられない、落選してしまう(統一教会の支援は、もう、無理かもしれない)。だから、なんとしても「法人税増税」を「提言」に盛り込まれては困るのだ。
 ④の「幅広い税目」は漠然としている。もちろんそこに「法人税」も含まれるかもしれない。しかし、狙いは「消費税」である。消費税は金持ちも貧乏人も、分け隔てなく「幅広く」徴収できる。この消費税の特徴は、貧乏人ほど負担が重いということである。金持ち優遇の税制である。
 だれかが「消費税増税」を主張して「根回し」している。しかし、「消費税増税」を提言に盛り込むと「有識者」が批判される。批判されたくないから、それを提言に盛り込まなかったというだけなのだ。
 政府もいい加減なら、「有識者」だっていい加減なのだ。テキトウに「根回し」を調整しておけば誰からも批判されずに「有識者提言」の報酬さえもらえればそれでいいということなのだろう。
 わかることはひとつ。
 「提言」をもとめた政府の内部に「法人税増税」を求める意見と、「消費税増税」を求める意見の対立があり、それが「調整」できない段階に来ているということである。防衛費だけにかぎらないが、これから本格化していく「予算審議」の「前哨戦」のようなものがここに隠れている。「予算」という、いちばん大事なものをめぐって政府内に「意見対立」があり、それが今回の「提言」に反映している、と読むと、これから起きる「岸田政権」の「大揺れ」がわかるようでおもしろい。

 他紙はどう書いている知らないが、読売新聞は「大揺れ」を含んだ書き方をしていて、とてもおもしろい。私は単に新聞を読んで推測しているだけだが、東京ではきっといろんな情報が交錯しているだろうなあ。
 「おもしろい」と書いているうちに「消費税大増税」が起きてしまうかもしれないが。だから「おもしろい」と言っている場合ではないのだが。

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