読売新聞の嘘のつき方(その4)

読売新聞の嘘のつき方(その4)
   自民党憲法改正草案を読む/番外386(情報の読み方)

 2020年09月02日の読売新聞(西部版14版)。1面「総括 安倍政権」(最終回)の署名記事。きょうは論説委員・尾山宏。見出しは、
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ウィング広げ 安定図る
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 記事は「安倍首相は『タカ派』『右派』と呼ばれ続けた。実際にどうだったかは、野党の対応が物語っていよう」と書き始められ、こう展開される。
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安倍内閣は、社会経済政策で、リベラルに近い中庸な路線を志向し、野党の主張を取り込んだ。
 首相は、かつて野党が求めていた最低賃金1000円の実現に奔走した。労働組合の代表のように、経済界に賃上げを迫った。働き方改革や教育無償化を含め、従来の自民党とは一線を画す政策を推進したのは、明らかである。
</blockquote>
 でも、最低賃金のアップ、教育無償化は、はたして「ウィング(右派、左派)」の問題なのだろうか。労働問題や教育問題、その「金銭」にかかわる問題は「右派、左派」の問題ではないのではないか。「貧乏人の味方か、金持ちの味方か」という問題だろう。そして、貧乏人にも右翼と左翼がいるし、金持ちにも右翼と左翼がいることを考えるならば、尾山の指摘していることは「ウィング」とは関係ないだろう。
 というか、「金銭」に隠れている「ウィング(右派、左派)」の問題(いわゆる野党=左翼が指摘している問題)は「最低賃金がアップした」「教育無償化が進んだ」と安倍が宣伝していることをそのまま鵜呑みにしては見えてこない。つまり、尾山は、野党(左翼)が指摘している問題を隠蔽する形で「論理」を展開していることになる。
 現実に即してみてみよう。
 「最低賃金」はたしかに上がったが「最低賃金1000円」は全国一律に実現しているわけではない。東京、神奈川で実現されているだけだ。(まず、ここに読売新聞の「大嘘」がある。実現していないことを、実現しているかのように書いている。)さらに、「最低賃金」だけではなく、あらゆる「賃金」に目を向けるとどういうことがわかるか。大企業の正規社員と、それ以外の人との「賃金格差」が拡がっている。その拡がった「格差」に対して、安倍は、どう向き合っているか。「格差拡大社会」を利用している。「賃金が少ないとしたら、それは自己責任。大企業に就職できない人間の努力が足りない」と低賃金労働者を差別していないか。
 「教育無償化」に目を向けると、もっとむごたらしいことがわかる。教育無償化から朝鮮学校を除外している。教育はだれでも受けることのできる平等の権利であるはずなのに、国籍、民族によって差別をしている。これは、いわゆる「右翼思想」の典型ではないか。
 安倍のやったことは、「野党の提案」を採用するふりをして、実は「差別の拡大」に利用したにすぎない。「幸福」の一方に「不幸」をつくりだし、「不幸」になりたくなかったら(差別されたくなかったら)、安倍の提案に従え、と言っているにすぎない。
 誰が誰に、どういう教育をするか。誰が誰から、どういうことを学ぶか。それは各人の自由である。そういう「保障」を安倍はしていない。これは「超右翼」の発想である。
 こういう基本的なことを除外して、安倍は野党の求めているものを実現したから「右翼ではない、左翼にも配慮している」(ウィングを広げた)とはいえない。
 尾山は、「最低賃金アップ」「教育無償化」に触れたあと、こう書いている。
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 高齢層に支持されているという自民党の印象を変え、若い世代にもウィングを広げることに成功した。読売新聞社の世論調査では、20~30歳代の安倍内閣支持率はおおむね5~6割あり、他の年代よりも高い。支持層の拡大は、長期政権を築くのに不可欠だ。
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 若い人の支持率が拡大したのは、安倍の主張する「自己責任論」に恐怖を感じているからである。
 だれでもいい、大手の会社の正規社員ではなく、子会社の非正規社員、嘱託社員、あるいはパートやアルバイトで懸命に生活費を稼いでいる人に声をかけてみるといい。「安倍批判のデモにいかない? 安倍批判の映画を見に行かない?」「忙しいから、いけない」という返事とともに「そんなことをしているのが見つかっても大丈夫?」「そんなことをしたら、損にならない?」という返事がぽつりと返ってくるはずだ。私はある人から、会社の待遇について不満を訴えた。すると部長から、そんなことを会社に言うと損をするよ、と言われた」と打ち明けられたことがある。一部かもしれないが、労働者が労働者の権利を主張すると「損をするぞ」と脅しをかける管理職がいるのだ。これが現実なのだ。そういう圧迫のなかで、若者は萎縮している。仕事がなくなれば暮らしていけない、と不安で「安倍批判」ができない。「安倍支持」と言うしかないのである。高齢者は、まだ、それまで生きてきた過程で「経済的蓄積」が少なからずある。だから安倍批判ができる。でも、経済的に余裕の少ない若者は安倍を支持するしかない。
 「20~30歳代の安倍内閣支持率はおおむね5~6割」というのは、恐慌政治(独裁政治)がはじまっている証拠なのである。

 「右翼」「左翼」でいちばん問題になるのは、世界的な紛争をどう解決するかというときだろう。安倍は、どれだけ「ウィング」を広げたか。核兵器廃絶を求める被爆者の声にさえ耳を傾けていない。条約に署名することを拒んでいる。沖縄では、県民が反対しているにもかかわらず辺野古基地建設を強行している。「陸上イージス」を撤回したと思ったら、それは「敵基地を先制攻撃するミサイル」を導入するためだった。(これは、これから出てくる問題だが。)
 安倍が北朝鮮の「危機」をあおり、予算を軍需費に投入している(アメリカの軍需産業に金をばらまく)。「最低賃金」や「教育費」をはるかに上回る予算が投入されている問題について触れないで、「野党の提案を汲んだから、安倍は右翼ではない=ウィングを広げた」というのは、まやかしの論理である。

 最終回なので、「総括」めいたことを書く。読売新聞の今回の連載の特徴は、「ことば」を恣意的にゆがめていることである。問題の本質を微妙にずらす。ずらしたなかで「論理」だけを完結させる。そのとき「なんとなく、耳障りのいいことば」をつかう。今回の「ウィングを広げる」もそうだが、戦争法の強行採決を「戦後外交に区切り」と言い換える。(安全保障問題は、「外交」問題ではない。)「共感力」というのも、即座に「批判」すべき点が見つからないことばである。このずるい(こざかしい?)ことば、安倍に媚を売ることばを、しっかりと批判していかないといけない。安倍の独裁は終わっていない。菅を後継者にすることで、さらに支配力を強めるのだ。「ぼくちゃん、首相じゃないから、知らない」と逃げながら支配する。ある意味では、安倍の理想がひとつ実現するわけである。「ひとつ」と書いたのは、安倍の最終目的は「悠仁天皇」を誕生させ、「悠仁天皇」生みの親として権力をふるう(国民を支配する/独裁する)というのが安倍の最終的な夢だと私は判断しているからである。平成の天皇の強制生前退位(天皇を沈黙させる作戦)から、ずーっと、変わらずにつづいている姿勢だ。河井事件(河井公判)を乗り切れば、「治療効果が持続するようになりました」と言って、もう一度首相に返り咲くつもりなのだろう。二度あることは、三度ある。私は、そう思っている。きっと読売新聞の記者たちもそう思っている。だから、こんなふうに媚を売りまくっているのだ。国民をたぶらかすことに一生懸命なのだ。

 急に思い出した。
 いちばん上手な嘘のつき方を知っていますか? ある本には「ひとつだけ本当のことを言う」と書いてあった。今回の記事でいえば「野党の提案している最低賃金1000円を実現した」である。たしかに東京、神奈川では実現した。それは「本当」である。しかし、その本当の影に、無数の嘘が群がっている。読売新聞は、「いちばん上手な嘘のつき方」を利用している。
 そして、安倍の「病気辞任」もきっと同じ。「病気が悪化」したのは事実だろうが、尾を引くような悪化ではない。「辞任後」完全に元気を取り戻している。支持率が回復したと喜んでいるではないか。自民党全体が、「石破総裁」拒否へ向けて一致団結しているのは、石破が総理になれば安倍が復活できないからである。岸田がなっても復活できない(安倍後継と言われていたから)。安倍が「三度目の復活」をするには菅氏かないのだ。


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