時系列の選択と用語(読売新聞記事の書き方、読み方)

 2022年12月22日の読売新聞(西部版・14版)の一面。(番号は、私がつけた。見出しには、もちろん番号はないのだが。)
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①中国「南西諸島攻撃」訓練②習氏指示 安保3文書受け開始(見出し)
 ③【北京=大木聖馬】今月16日から沖縄県南方の西太平洋で活動している中国軍の空母「遼寧」を中心とする空母打撃群が、日本の南西諸島への攻撃を想定した訓練を実施していることがわかった。④中国政府関係者が明らかにした。⑤習近平国家主席が、日本政府の「国家安全保障戦略」など安保3文書の閣議決定に時期を合わせて訓練を開始するよう指示したという
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 この記事には注意しないといけない点がいくつかある。一つは「時系列」である。
 ①中国「南西諸島攻撃」訓練、を読むと、中国が「突然」訓練を開始したと思ってしまう。中国は南西諸島を攻撃しようとしている。日本侵略を考えている。危険だ、と思ってしまう。しかし、中国が訓練を開始したのは、②習氏指示 安保3文書受け開始、からわかるように日本政府が安保3文書を閣議決定したからである。⑤に、きちんとそう書いてある。(少し微妙な書き方をしているが、その点はあとで触れる。)
 時系列から言うと、安保3文書閣議決定→中国の訓練開始なのである。もし閣議決定がなければ、訓練はなかったかもしれない。(繰り返しになるが、少し微妙な書き方をしている。その点はあとで触れる。)
 このことを、まず、しっかり意識しておく必要がある。
 ここで「開始」ということばをつかっているのは、前文には書いていないが、まだ訓練がつづく(終わっていない)からである。終わらないうちに報道し、国民の関心を呼ぼうとしている。
 記事は「わかった」ということば(③の末尾)で、これが読売新聞の「特ダネ」であることを暗示している。(私は他紙を比較したわけではないが、「特ダネ」だろう。)情報源として④中国政府関係者をあげている。
 
 「時系列」の問題から言うと、もうひとつ気をつけないといけないことがある。中国の訓練は、単に閣議決定を受けたからはじまっただけではない。前文を読むと、閣議決定があったら訓練があったという時系列しかわからないが、実は、それには「前段」(前の時系列)がある。
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⑥空母打撃群の冬季演習は例年、12月頃に年間計画に基づいて実施しているが、日本が16日に3文書を閣議決定したことを受け、習氏が「同じ日に遼寧の冬季遠洋訓練を実施する」よう命じた。⑦演習期間中、台湾に対する戦略爆撃機による東西からの挟撃訓練も行う。
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 中国は、「例年」同じ訓練をしている。だから、それは突然ではない。いつものことなのだ。いつものことだから安心できるというわけではないし、中国がいつも訓練をしているからこそ閣議決定した、という論理も成り立つ。
 つまり、中国の訓練の常態化→安保三文書の閣議決定→中国が今年の訓練を開始。
 それに、中国は⑦の台湾攻撃も訓練している、「台湾有事」が起こりうる。だから、安保3文書の閣議決定は必要だったのだと岸田は言うだろう。
 しかし、これにもさらに「前段」がある。
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⑦中国政府関係者によると、(略)日本が南西諸島へのミサイル配備を検討していることへの「対抗戦略」として、西太平洋の海上から、南西諸島へのミサイル発射を想定した遠距離打撃の訓練を行うという。
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 つまり、「日本が南西諸島へのミサイル配備を検討」しなければ、そういう訓練は、必要ないのである。こういう「時系列」の追求は、けっきょく、「鶏が先か卵が先か論」になってしまう。これ以上書いてもしようがないが、「時系列」がそういうものであるかぎり、それはいつでも「操作できる」ということを忘れてはならない。「歴史(時系列)はいつでも「いま」を起点にして書き換えられるものなのである。

 もう一つ大事なのは「用語」の問題である。読売新聞は「南西諸島攻撃」ということばをつかっている。そして、前文④に「中国政府関係者が明らかにした」と書くことで、それが中国の「用語」であるかのように印象づけている。
 ところが、記事の後半に、こういう文章がある。
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⑧中国は「積極防御」の軍事戦略をとっているが、米国防総省は「積極防御は攻撃の準備を行う敵に対する先制攻撃を伴う可能性がある」と指摘している。⑨安保3文書は反撃能力の保有を明記したが、習政権は日本が南西諸島にミサイルを多数配備することを警戒しており、⑩中国政府関係者は「演習をもって日本の対中安保戦略をたたく」と狙いを話した。
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 中国は「積極防衛」ということばをつかっているらしい。その定義を、読売新聞は「積極防御は攻撃の準備を行う敵に対する先制攻撃を伴う可能性がある」と米総務省に語らせている。(自分では判断しない、という方針が読売新聞では徹底しているらしい。)しかし、この「攻撃の準備を行う敵に対する先制攻撃」というのは、いま新聞などでしきりにみかける「反撃能力」とどう違うのか。
 中国の「積極防衛」は「攻撃の準備を行う敵に対する先制攻撃」であり、日本が同じことをすると「反撃能力」なのか。中国の「積極防衛=先制攻撃」、日本の「先制攻撃=反撃能力」は、どうしたって、おかしいだろう。「反撃能力」というのは、あくまで「攻撃を受けたあと発動される」というかもしれないが、「先制攻撃」の定義をどうするかを抜きにしてはこの議論は意味がない。敵のミサイルが着弾した時点で「攻撃された」になるのか、敵がミサイルを準備した段階で「攻撃された」になるのか。厳密に「ミサイルが着弾した段階(なぜなら、ミサイルは途中で落下するかもしれない、もっと遠くまで飛んで行ってしまうかもしれない)」とするなら、そのミサイルが日本のミサイル基地に着弾したら「反撃」できないから、「反撃能力」は「攻撃される前」に発揮されなければなないことになるだろう。これは中国から言わせれば⑨に書いてあることになる。
 「時系列」と同じように「積極防衛(先制攻撃)」「反撃能力(正当防衛?)」というような「用語」は、もっと「厳密」につかわないといけない。内容を判断しないといけない。中国は「積極」的に攻撃してくる。日本は、それに「反撃」すると簡単に言い直してはいけない。「反撃」はあくまでも「攻撃」なのである。
 「用語」の問題に関して言えば、この記事には、わからないところがある。
 「訓練」と「演習」の違いである。読売新聞は「訓練」ということばをつかっているが、中国ではどうなのか。
 ⑥では例年は「冬季演習」だったが、今年は習が「冬季遠洋訓練を実施する」ように命じたと書いてある。「演習」から「訓練」に格上げ(?)したということか。読売新聞は、「格上げした」と判断して「訓練」ということばを見出しにとったのか。こう疑問に感じてしまうのは、「情報源=中国政府関係者」は⑩で再び「演習」ということばをつかっているからである。ここでは「訓練」と言っていないからである。
 ⑥に登場する習の「冬季遠洋訓練」は、ほんとうに習がつかったのか。読売新聞は確認したのか。「情報源=中国政府関係者」が「伝聞」でつたえるとき「訓練」と明確に言ったのか。

 「ことば」よりも「事実」が大事、という見方もあるかもしれないが、「ことば」は「認識」のあり方それのをあらわす。「認識」が違うということは「事実」が違うということである。「ことば」は思想である。(ことばによって作られる「時系列」も思想である。)だからこそ「反撃能力」というような、「攻撃ではない」と主張する表現も生まれてくる。「ことば」にこだわって読む必要がある。
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中国「南西諸島攻撃」訓練/習氏指示 安保3文書受け開始
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 これは「時系列」をきちんと伝えているのか。「事実」をつたえる「ことば」はだれによって共有されているのか。

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