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MASTERキートン

 私の人生を変えた本はたくさんありますが、一冊選べと言われれば、漫画ということで反則なのかもしれませんが、勝鹿北星作・浦沢直樹画のMASTERキートン、その中でも第4巻です。
 MASTERキートンは、考古学者にして探偵(保険会社の調査員)、そして元軍人(イギリス空挺部隊のエリート)という三つの顔を持つ主人公キートンが、世界中で活躍する一話完結型の傑作漫画。考古学者としての歴史知識、探偵としての捜査情報収集能力、元軍人としてのサバイバル戦闘能力、どれも一級品の能力を活用するためそれぞれの話が変化に富み、冒険活劇あり、戦闘ものあり、歴史ミステリーあり、探偵ものあり、人間ドラマあり、とにかく一つの言葉でくくれない漫画でした。
 中学生の頃にMASTERキートンにはまった私は、キートンに憧れ、もともと好きだった歴史を学ぶことを決意して、大学は史学科を選びました。歴史学を職業にしなかった今でも歴史を学び続けています。それはMASTERキートンの一説に、「人間は一生、学び続けるべきです。人間には好奇心、知る喜びがある。肩書きや、出世して大臣になるために、学ぶのではないのです…。ではなぜ学び続けるのでしょうか?…それが人間の使命だからです。」というキートンの台詞があり、中学生ながらに生涯学び続けることを強く心に誓いました。
 他にも印象的な言葉、私の人生に影響を与えたシーンはたくさんあったのですが、一番私の人生の土台となったのは、第4巻のシーンです。
 あるテロリストの男が老人に声をかけます。「じいさんいくつだ?」「俺か…九十六だ。」「いくつの時が、一番楽しかった?」少し考えて老人は、「…今だな」と答えます。退屈じゃなかったのかと聞かれ、「退屈してる暇なんぞあるかい。生まれてよかった、とても楽しい人生ってやつさ。これからもずっと楽しいに違いない…」と答えるのです。そう答えた老人を次の日訪ねると、突如その老人は亡くなっており、その死に顔はとても穏やかなものでした。
 テロリストの父親はイギリスへの闘争の中で死んだ英雄、彼は父親に憧れて闘争に身を投じたのですが、英雄の父とはかけ離れた平凡な老人の言葉と死に直面し、人は穏やかな死を迎えるべきだと改心するというストーリー。
 私はこのシーンを見た時、私の心の中心に一本の柱が立った気がしました。
 96才になっても今が一番楽しいと言える人生を送ろう。あの時がよかった、今はダメだと後悔するような人生を送らないようにしよう。もちろんキツい時も悩む時もあるだろう。けどそれでも今が一番楽しいと言おう。
 楽しいかを決めるのは自分であって、心の持ちようで楽しい人生にもつまらない人生にもなり得る。いわば幸せは自分の心にある。
 それ以来、私の座右の銘は、高杉晋作の辞世の句「おもしろきこともなき世をおもしろく」で、どんなにおもしろくなくても、いつも全力で人生を楽しむようにしています。
 今私は、僧侶と議員という二足のわらじで働いていますが、二つの顔を持ったことは結果的にキートンのような立場ともいえます。僧侶としては世界三大荒行を経験した時、「今を楽しむ」という精神に何度も助けられましたし、信者さんに説法する時も人の相談に乗る時も、この思想が底流に流れている気がします。議員としても選挙や人からの中傷などツラいこともありますが、人があまり経験しない「今を楽し」んで乗り切り、まちづくりに取り組んでいる人生を何より楽しいと感じています。
 MASTERキートンは、私の人生と心に、「楽しむ」という柱をくれた一冊でした。

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