IT×小売から見たオンライン広告と商業不動産

日本のオンライン広告は旧来のマスメディアの規模を抜いたが、インターネットのトラフィックの増加を背景に媒体や出稿者、プラットフォームが切磋琢磨する中で分析やトラッキング技術の改善を積み重ねて出稿者の求める効果の最大化を実現し、同時に広告費の増加につながってきたように思う。

一方で、媒体からみた広告費の最大化を実現する中で、必ずしも一般的に良いと思われないような情報商材や商品などの販売にもオンライン広告が多く使われている。フェイクニュースやコンプレックス商材などもその一つと言えそうだ。最終的には消費者が自らの意思決定で購入をしているケースが多いことを考慮すれば、一意に否定されるべきものではないが、今の世界における倫理観では否定される場合が少なからずあるだろう。

媒体の資本の論理としては、ある程度の悪を許容しつつ収益を最大化するのは短期的には正しい行動だが、長期的なオンライン広告市場の発展や消費者生活の改善という意味では正しくないと思われつつある。そのような広告市場にしたくないとの声やトラッキングの規制などもそんな背景から出てきてるであろう。

視点を商業不動産に移してみると、同じことが起きていたといえる。短期的な資本の論理通りにやれば、個人や中小企業ではなく資本力のあり仕組化がされている大企業に不動産を貸すことが正しい。大企業が運営するチェーン店は運営の継続性が高く、利益率が平均的に高いため、アパレルでも飲食でも商業施設や不動産企業の利益率は安定&高くなりやすい。

その結果、街中にチェーン店が増えてしまいどこでも同じ安定した品質のサービス・商品が受けられるメリットを消費者は享受できるようになった。一方で、そこには新たな発見・おもしろさはない。結果として、消費者の百貨店などの商業施設離れや一部の街におけるチェーン店増加による街の滞在時間減少につながっているように思う。

抜け落ちている観点は、時間軸と体験価値だろう。時間軸は、短期的な収益の最大化を目指した結果、長期的な街の活性化とそのなかにおける不動産業としての収益極大化と反する結果を招いてしまうこと。

体験価値は、オンラインが生活の中心になりつつある中で、オフラインの空間がオンラインに比べて優れている体験価値を従来よりも否応なしに意識しなければならなくなったこと。ものを売るということについては従来の仕組でうまくやれている大企業も多くあるが、体験価値を売るという観点では仕組み作りは全員スタートラインだろう。この領域では、個人のクリエイターやデジタルネイティブブランドなどのスタートアップ企業がうまくやる可能性も十分あるため、広く門戸を広げてチャレンジし続ける土壌が必要だ。

企業として不動産で稼ぎ、短期的な収益最大化を目指すだけでは不十分。エコシステムの長期的な発展とそのなかでの適切な収益獲得が今後の不動産領域についても求められるなかで、誰にもに開かれフレキシブルに利用できる不動産業界を、個人やクリエイター、中小企業をエンパワーメントしていく小売業界を作っていきたい。

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