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途切れている座標

北海道本島と北方領土の国後島の間には、根室海峡があります。地図のオレンジラインを引いた場所です。海峡の全長は約130キロメートル。

日本の福岡FIRと 隣接するロシアのハバロフスクFIRとの境界は、この根室海峡の上空を通っています。


▲ 福岡FIRの範囲(AIPの図に加筆)

FIR とは「飛行情報区(Flight Information Region)」のこと。

国際民間航空機関(ICAO)により設定された 航空機の航行に必要な各種の情報の提供又は捜索救難活動が行われる空域(航空局資料による)が FIRです。今回注目するのは 矢印で示した部分、根室海峡です。

FIR を構成する座標(緯度・経度)は、AIPにより公にされています。たとえば、次のように。


▲ 福岡FIRの範囲を示す情報(2024年3月21日有効のAIP)

緯度・経度(度分)で示された位置を直線で結んでいきます。下線部が 先の図の矢印で示した根室海峡に当たるのですが、「…北海道と国後島の間…」としか書いてありません。これでは、どこに線を引いたら良いのか分からないではありませんか。


▲ 根室海峡のFIR境界線(やぶ悟空による推定)

この図は、ある程度 適当に線を引いただけなのですが、根拠として参考にしたのは、次の図です。


▲ 根室海峡のFIR境界線(エンルートチャートに加筆)

上が北になるように、EN-ROUTE CHART 1 の図を回転させました。根室海峡の日ロ中間ラインらしき線のようなものが描かれています。座標は明示されていませんが、おそらくこれが FIRの境界線と見て良いでしょう。

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一方で、ロシアのAIPには どう書いてあるのでしょうか?

RUSSIA AIP の 2024年4月18日に有効となる AIRAC AMDTに「ハバロフスクFIR」の範囲を示す座標が掲載されていました。


▲ ハバロフスクFIRの範囲を示す情報(2024年4月18日有効のAIP)

根室海峡部分のFIR境界座標は、やはり明示されておらず、英語では「.. along the state border ..」(…国境に沿って…)となっています。

他の明示された座標(度分秒)のうち、日ロのFIR境界となる部分は本来なら一致しているはずですが、根室海峡の北と南の2か所の座標が、なぜか異なっていることに気付きました。


▲ 日ロで異なるFIR座標(地理院地図に加筆)

根室海峡の北側では、ハバロフスクFIRの座標だけが1個多く、南東側にせり出しています。また、根室海峡の南側は、図のように座標が大きく異なっているうえに、…


▲ AIP RUSSIA の En-route Chart 12(赤色加筆)

…南西側の太平洋上にせり出している図が見つかりました。これは、ロシアのエンルートチャート(2023年11月30日有効版)です。

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日本の敗戦直後、ソ連軍が北方四島を不法占拠したことで、根室海峡に日ソ中間ラインという事実上の「国境線」が生まれた。(北海道新聞 2022年10月26日夕刊「海と国境」より)

日本の主張は、ロシアが わが国固有の領土である北方領土を不法に占拠し続けているのであって、日ロの国境は根室海峡にはないのだから、そもそも「中間ライン」は存在し得ないものだ、ということなのでしょう。そんなわけで、ラインの座標(緯度・経度)は公表されていないのです。ロシア側もまた、その位置を明らかにしていません。

そうは言っても、日本の航空機がロシア領に接近し越境すればロシアの戦闘機が向かってくるでしょうし、その逆もあります。実際に、ロシアのヘリコプターが知床半島付近で我が国の領空に少し入って通過していったときは、自衛隊の戦闘機がスクランブル発進し、ニュースになりました。

この付近の漁業者にとっては もっと切実でしょう。座標が公表されず中間ラインが曖昧な状態だと、越境するつもりなどなくても ロシア側に拿捕だほされる危険があるからです。

そんなことも含め、次回へと続きます。


AIP : Aeronautical Information Publication、航空路誌
AIRAC : Aeronautical Information Regulation and Control、エアラック
AMDT : Amendment、改正、修正
FIR : Flight Information Region、飛行情報区
ICAO : International Civil Aviation Organization、国際民間航空機関


※ 図にはすべて、やぶ悟空の解釈による加筆・編集が加えられています。使用には十分ご注意ください。

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