見出し画像

PPP的関心【病院PFIの可能性について】

少し前、2021年8月の記事ですが、こんな記事がありました。

#日経COMEMO #NIKKEI

東京都は多摩地域の医療拠点を対象としたPFI(民間資金を活用した社会資本整備)を拡張する。既存2病院に加え、がん検査や難病治療を担う2つの医療施設もPFIで整備・運営する。

日本経済新聞 記事より

記事中にある ” PFI法が施行された1999年から2020年3月末までに実施方針を公表した818 事業のなかで病院は15  件にとどまる。" という記述の通り、民間の資金や知見を活用した公共施設整備の推進やサービス・運営の効率的実施のためのPFI の仕組みによる公立病院整備事例を、国内ではあまり聞いたことがありません。

今回は、この先、医療機関の整備についても民間活力の導入を期待する契機になればと思い、この記事を読んで考えたことを書いてみました。

PFIで整備されたオーストラリア・王立病院の視察

少し前、2018 年に東洋大学公民連携専攻の教員 / OB 有志とオーストラリアPPP 事例視察ツアーに参加しました。ツアーの訪問先のひとつにメルボルン(ヴィクトリア州)の王立婦人科病院 The Royal Women’s Hospitalがありました(*記事トップの写真は当時撮影したエントランスの写真です)。

この王立病院はPFI で整備された病院で、2005年~2033年( 運営25年 )の間、医療行為を除く病院の建設・運営・維持管理・大規模改修が民間事業者(米国の不動産企業と聞きました)によって運営が行われていました。

また、周辺にはこの病院のほかにも複数の病院(王立メルボルン病院、王立こども病院、がんセンター、私立病院)が集合的に立地していて、病院 PPP とも言える「連携」も行われていました。
例えば王立婦人科病院には 200の病床があるのですが、その利用率や回転率が高いことに加え、さらに周辺のがんセンター等の患者を相互に受け入れる病床も確保されているといったように、効率的な施設運営が行われているときました。
取材をしたのは運営事業者でしたが、彼らが強調していたのは、重要なことは専門化と分業による病院運営というでした。分業の線引きは「医療」と「施設運営」、具体的には、ドクターとナースは医療活動に専念する、病院施設の建設・運営・維持管理・大規模改修は運営事業者が専念する、という領域分けです。加えてもう一つ彼らが強調していたことは、自分達の活動には医療スタッフとの綿密なミーティングによる情報共有が不可欠」であるということでした。

冒頭に取り上げた記事の中でもPPP / PFI 専門家の ”「病院PFIの成功には、SPCに委ねる事業の切り分けや医療現場との綿密な意思疎通が欠かせない」と指摘する。” というコメントが書かれていましたが、取材事例の王立病院では、まさに医療の専門家と施設運営の専門家の「綿密な意思疎通」が実践されていました。

病院PFIの「効果」をどう見るか

都は19年に公表した3つの病院PFIの検証報告書で、高額な検体検査や医薬品、診療材料の登場に伴い経費が事業開始時の見込みを大きく超過したとする一方、高額医療の実施件数の増加で収入も伸びていると分析。PFI自体の効果は認められるとして、今回の事業拡張を決めた経緯がある。

日本経済新聞 記事より

引用した記事では病院経営の収支について、外部環境の変化によるコスト増はあったが収入も増えたことを一つの要因と分析し「PFI自体の効果」としているが、高額医療の実施件数の増加というのは、直接のPFI運営事業者による施設運営や医療機器やサービス提供に必要な備品等の調達の努力をした結果ではないと思うし、もっと言えば「たまたま高額医療サービスが売れた」としか言っておらず、それをPFI の効果とするのが妥当かどうかは微妙なところだと感じます。 *たまたま記事の書き方だけかもしれませんが。。。。

PFI の効果をどう定義するかは当初目的が実現できたか、役割分担をした際の成果基準であって、結果論的な「実施件数の増加」はとするのは後出しのような成果の定義だと思います。

ベタな成果ですが、例えば、維持管理コストの削減や付帯施設の付加価値による営業外収益の獲得といったPFI事業者による分業担当領域における成果を示した「数値比較」や、もしも高額医療の増減などの結果指標に着目をするのであれば、施設維持のための運営コストの削減効果で高額医療を提供可能にする設備を導入し、その結果、当該医療を希望する患者が増えたといった連鎖の中で成果を見る工夫をする必要があるのではないかと思いました。

病院PFIの可能性

病院施設整備は、医療という専門性と市民の生命に直結するという重要性があるゆえに、医療領域以外の外部から企業経営経験等の得意分野を活かした「連携」で対処を、と気軽に言いにくい分野であったと思います。

しかし専門性と重要性の高い分野であるがゆえに、医療というサービスは存続させなくてはならないサービスです。ただし少子化や高齢化など社会構造の変化に伴う医療サービス需要の変化によって、病院を「経営する」ことは簡単ではなくなるはずです。
そのような難しい時代に医療サービスを維持するためには、医療の専門家は経営のプロでないこと、経営の経験が豊富な人の多くが医療の専門家でないという事実を認め、専門分野の違うもの同士のそれぞれが持てる経験と知見を活かし合う「連携」で乗り切ることが必要になるはずです。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?