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PPP的関心【地域経営にとって好ましい税収構造。法人住民税に焦点を当てた記事を読んで】

先週の記事ですが、10年比較で法人住民税を伸ばした(税収増を果たした)自治体が575市町村に及ぶという記事を読みました。
確かに法人住民税が増加するということは、市域内に立地する企業が増え、あるいはそれらの企業が雇用と付加価値を地域にもたらしている面では歓迎されることではありますが、地域経営における財源確保施策として「集中」してよいのか?については他の見方もあると思います。
今回はこれについて考えたことを書いてみます。
*写真は2018年に訪問したチューリッヒのコーポラティブ住宅団地内にある計画展示を視察した時の1枚。

記事から。「法人住民税」増収の背景

記事では、大規模な工業団地の整備によって企業誘致を果たしたという例や観光、再エネ発電事業たそれに伴うインフラ整備、IT企業の集積による産業クラスター創出といった例が示されていました。

#日経COMEMO   #NIKKEI

しかし、記事の「2010年度と20年度の市町村税収を比べると、全国平均は7.2%の減少だった」という内容にもあるように、どの自治体でもこの手法で自主財源を増やすことができるわけでもなさそうです。
また、法人住民税が全体にどんなインパクトを与えるかという観点で見た時に域内の法人からの収入増確保に「集中」することは手順として適切なのかについては疑問が残ります。

改めて確認。地方自治体の歳入構造

以下のグラフは令和4年3月に総務省から出された「地方財政の状況(地方財政白書)」から道府県、市町村の収入額の構成を示したものをピックアップしたものです。

「地方財政の状況(令和4年3月 総務省)」3地方財源の状況 より
「地方財政の状況(令和4年3月 総務省)」3地方財源の状況 より

記事の主題である法人住民税は道府県税で全体の3%、市町村民税で全体の8%です。もちろんこれは「全体」の結果で自治体によってばらつきがあるとは思いますが、割合として無視できないとかこの伸び率が全体税収に与えるインパクトという点で、法人住民税増を「優先」課題に挙げる「べき」だとまでは言えないのではないか、そう思います。

優先施策とまでは言えないとは思うと書きましたが、分解してみれば、誘致した産業が新たな住民を連れてくるとか域内消費が増えるといったことを通じ個人住民税や地方消費税などの増収効果も考えられますし、逆に産業誘致政策でよくある一定期間の固定資産税減免を「呼び水」にしたりする場合は期待ほどの伸び率が得られないマイナスケースも考えられます。
産業誘致ではこのような「差引き」トータルでの効果を考え、法人住民税=市域に法人(の存在)が増えた!ということだけで考えるものでもないと思います。

構造から考える優先順位付け

再び「地方財政の状況」を見てみます。
そもそも市町村税では「固定資産税」と「個人住民税」が主力で、合わせて約8割にのぼります。つまり、地域経営における財源安定化施策を検討する際のアプローチでいえば、この二つの科目の増加あるいは維持について優先順位を上げることがセオリーと言ってもよさそうです。

固定資産税の基盤は(産業装置などもありますが多くは)不動産価値です。また個人住民税の基盤は住民の稼ぐ力です。言い換えれば、市域の財産価値の維持と担税力のある住民の誘導・確保が主力税収科目の確保につながってゆくわけです。

優先順位付けのセオリー≒時間がかかる「まちづくり」

地域の不動産価値につながる取り組みは、利便性の向上や公園など快適性の向上といった都市アメニティの整備やインフラ性能の維持が考えられます。また住民誘致には住んで心地よい、魅力的な空間があるといった環境整備も必要です。言い換えれば、これらはいわゆる「まちづくり」に関わる施策というべきものです。

ただし、これらをハード整備事業と捉えることは期待通りの結果を産まないことが考えられます。人口ボーナスを享受した時代にもてはやされた「キャピタリゼーション仮説(インフラ整備→需要拡大→価値向上という循環)」は人口オーナス時代には通用せず、また例えば短期的に大規模な宅地開発で住民誘致を図るにはライフライン整備はもちろん学校など利用期間が限定的なインフラ整備もセットで考えなくてはなりません。
つまりハード先行では瞬間の利益(建設とか整備とか)確保までは見通せるけれども、その先までを考えると見通しにくいということです。
若干飛躍的ですが、短期的かつ目に見える成果が欲しいことが「企業誘致」に目が向く背景なのかもしれません。

市域の財産価値維持と稼ぐ住民確保=まちづくり。
「時間がかかる」施策を選択できるか?

ハード整備「だけ」ではなく、まちの使いこなし等のソフト(担い手発掘・育成、環境整備など)整備が伴うことが求められることは「成果が短期的に可視化されにくい」という困難が伴います。つまり時間ががかかります。

時間がかかるとか可視化しにくいという成果は、短期成果を重視する政治にとっては選びにくい選択かもしれません。しかし、住民は「集める」ものではなく「集まる」ものだと考えれば話は変わるのではないでしょうか。

「集める」のではなく「集まるようにする」にはどんな公的サービス提供をすれば良いのか。この発想と視点が地域経営施策の根底にあることで住民や来街者が集まり、「集まった」ことで経済活動が拡大し人が人を呼ぶ好循環が生まれ、最終的に地域の不動産価値に表出するという循環が創造される、そう考えます。
こういう施策は都市間競争につながる遠因にもなる?という指摘も含めこのような優先順位付けを行うことは一筋縄ではいかないとは思います。しかし単にハード整備さえすれば良い、企業誘致さえすればよいという短期的思考だけでなく中長期的な「循環視点」で考えることも必要だと思います。

今回はここまで。


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