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PPP的関心【図書館と賑わい施設の共存】

個人的に「図書館」という施設に最もお世話になった時期は中学生や高校生の頃でした。ありがちですが、受験勉強「スペース」として使った思い出がほとんどで、大変残念ながら新しい知、見識を広めるような情報、一冊との出会いという場ではなかった気がします。
そもそも図書館とは何か。図書館法で示された図書館は「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設」とあります。

(この法律の目的)
第一条 この法律は、社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)の精神に基き、図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「図書館」とは、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、地方公共団体、日本赤十字社又は一般社団法人若しくは一般財団法人が設置するもの(学校に附属する図書館又は図書室を除く。)をいう。
図書館法 条文より

昔の自分のような使い方はともかくとして、記事にあるような集客(2021年4月開館後、約4カ月で年間目標5万人到達、2022年1月にも10万人を突破も視野にはいる)が起きている現実から、図書館への現代的な「期待」って何なのかと気になりました。今回は図書館施設の整備手法、使われ方、市民の期待について「新たな可能性」を感じた事例記事を紹介したいと思います。

「図書交流館いこっと」@静岡県牧之原市

静岡県牧之原市に新しく整備された図書館が「いこっと」です。民間が整備して保有する建物の中で、行政が建物賃借料を払って図書館サービスを運営するという「民設公営」型PPPによる設置・運営がされています。
図書館は民間保有の建物の「一部」であり、同じ建物の中には民間が運営する交流スペース、賑わい創出スペース(堅苦しいですね書き方…(笑))が併存しています。

新しい可能性。整備事業における可能性

「民設公営」のベースとなる建物は、キーテナントとしてホームセンターが入居する商業施設を持っていた民間企業が、2019年のキーテナント撤退後に新たな集客施設へとリノベーションをする際、「地域活性化を目指す」という自らの意志を反映させたもので、行政が設定した課題である「人口減少と少子高齢化に歯止めをかけるために若い世代が地元に目を向ける契機になる施策」と不動産オーナーの「地域への貢献(自社の保有施設がこれまでは買い物するだけの場所だったのを、もう少し長く人がいられる”滞在型できる”場所にする)と保有不動産の効果的な活用」を考えあわせた意向が結びついて具体化した施設です。

図書館という(地域外も含め)比較的広域から人を呼べることで「若い世代に着目してもらう」という地域課題の解決や民間の事業者の地域貢献の実現と保有不動産の稼働という課題を同時に解決するとともに、「民設公営」型PPP 的手法による行政サービス立ち上げメリットは初期コストや運用コストの抑制、サービス開始スピード(この事例では構想・企画から2年で開館)が挙げられます。

牧之原市の初期投資は約2億円。単なる図書館ではなく交流施設でもあるという位置付けであることから、整備費の一部を国の地方創生推進交付金でまかなった。また、感染症対策のための自動貸出機や図書除菌機、ステイホーム生活の充実につながる図書の購入費用に対し、国の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金が適用されている。このため、市が実際に負担したのは6000万円ほどという。
「新・公民連携最前線 PPPまちづくり」記事より

新しい可能性。サービス提供の質的向上における可能性

冒頭に示した図書館法による目的に照らし合わせてみると、教養、調査研究への期待に対する図書館施設としての「あり方」はサービス提供者・利用者間で共通理解になっている気がしますが、「レクリエーシヨン等に資する」という期待へのあり方についてはその範囲や程度、対象など様々な点で曖昧なまま、ということにあらためて気づきます。

この事例では、こうした期待への応え方について一つのヒントを示していると思いました。例えば、特に個人的に好感を持った点として

  • 建物内で図書館エリアと民間エリアとの間に壁や仕切りを設けず、開放感のある一体的な空間として整備

  • 内装のデザインにも統一感を持たせることで、利用者は公・民の区別を意識することなく建物内を歩き回れるようになっている

  • 「いこっと」のキャスター付きの書架。この書架にはオープンスペースの展示内容や店舗に関連するテーマの本や雑誌が並んでいる。

など、リクリエーションに資する=自発的・創造的な余暇活動に適した機能の発揮がなされる可能性を感じました。

図書館サービスと経済合理性

図書館整備費用は、現在の世代への教養、調査研究、レクリエーシヨン等に関するサービス提供であるとともにに未来への投資でもあり、経済的な比較(費用対効果などの運営効率指標)については少し緩い見方をされがちではないでしょうか。図書館サービスは自治体にとって市民の目に止まりやすい市民サービスですし、利用者の要望も比較的高いと思われる公共施設の一つであると思います。
ですが、実際に行政がサービス提供をしてゆく上で、経済合理性を無視していてはサービス自体の持続可能性も担保できませんし、将来的な予算制約がある中で、税金を原資とする「費用」を効果的・効率的に使うべきだと考えることは当然なこと、必要なことだと思います。

記事では、事業を進める前に、PPP 型の図書館の施設整備、運営の先行事例を参考にしたことが書かれていました。これらの先行事例では PFI 手法など図書館の整備手法に加えて、運営の効率化や利用者の利便性や快適性向上を経済合理的を踏まえた上でPPP 的手法により実現する「サービス提供の質的向上」への配慮をしている点が共通していると思います。

右肩上がりの人口増と経済発展を所与のものとして、シビルミニマム水準のレベルアップ競争とばかりに「整備すること」「存在させること」を指標に競争してきたような思考はもう過去のもです。予算制約が一層厳しさを増してゆく将来に向かって、事例に取り上げられていた公共施設整備のあり方は「量的」な着目点から「質的」な着目点に変化していることをいち早く察知した事例とも言えます。

記事中で牧之原市と民間事業者が参考にした先行事例

オガール(岩手県紫波郡)

紫波町図書館@オガール

ヤマキウ南倉庫(秋田県秋田市)

大和市立中央林間図書館(神奈川県大和市)


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