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PPP的関心【PPPにおける合意形成】

あけましておめでとうございます。本年も引き続き「PPP的関心」をお読みいただけますと嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

2022年1月6日、今年1回目の記事は、PPP的手法による公的サービス提供等の取り組みを行う上で(従来型の公共事業を行う際にも本来的にはそうだと思いますが…)重要なステップの一つ、住民の合意形成についてです。
地域住民は広く捉えれば「計画の当事者」であると考えられます。その観点から、新たな施策の実施にあたり地域住民の課題感を理解し受け止めながら事業計画に対する理解を促すことは不可欠なステップだと考えます。
そうした不可欠なステップを新しい形式(=インターネット上で市民と行政が対話して社会課題の解決につなげるためのツールを利用)で進めるを紹介する記事を読んで考えたことを書きました。

記事にある加古川市版Decidimとは

加古川市がスマートシティ構想に対する意見募集などで使用している住民参加型の合意形成ツール。もともとDecidimはスペイン・バルセロナ市で誕生した、インターネット上で市民と行政が対話して社会課題の解決につなげるためのツール
一般社団法人コード・フォー・ジャパン(Code for Japan)が、その日本語対応を担当
加古川市は2020年10月、Decidemの日本語対応版を加古川市版Decidimとして日本の自治体で初めて導入
2021年度からは施設の愛称募集や市内を流れる一級河川「加古川」の河川敷利活用アイデアの募集など、様々なテーマの意見交換や提案に使用している

「新・公民連携最前線 PPPまちづくり」記事より

実際に 加古川市版Decidim を覗いてみると、

加古川市 市民参加型合意形成プラットフォーム HP

「新たに完成する複合施設(東加古川子育てプラザと東加古川公民館の複合施設)の愛称募集」や「加古川河川敷のにぎわいづくり 〜加古川河川敷における「魅力」や「やりたいこと」について、気づきやアイデアを出し合いましょう〜」といったテーマが公開されています。

加古川市版Decidim。記事から受けた印象と可能性

この記事を読む限りの印象としては、「住民に自らの意見や考えを発信する機会を提供すること、発信先(役所の中で受付窓口)を整理する機能が発揮されている」良いツールだと思いました。住民 − 役所間での問題提起や意見交換のやり方をデジタルツールで転換(トランスフォーム)する DX的な試みとしてこうしたツール利用が横展開されていくのは良いことだと思います。

現実にはツール利用にあたりユーザー登録(匿名性の排除や発信側への責任ある態度を求めるためには必須だと思う)の必要性による心理的・スキル的なハードルや、そもそもデジタルデバイドによるツール利用可能性の制約等から「問題を提起する」「意見を出す、交換する」"場"となるまでには時間がかかりそうという印象も同時に受けました(だからと言ってこの手の施策に意味はないとは決して思いません)。

また、同時に人口26万人の加古川市において、例えば新たな公共施設の愛称投票では7,000票以上の投票があったそう( 加古川市版 Decidim 以外のSNSツール利用も含めた数値とのこと )ですが、デジタルツールを介した直接的な投票行為や意思表示機会の提供は、自治体の計画策定や施策円滑な実施に向けて住民参加を促す手段として有効性、可能性をとても感じました。

デジタルツールの活用を進めるには「使いこなし」も問われる

一方で、名称投票として「選択肢から選ぶ」手法がとられたと推測されますが、提示された選択肢を「議論する」「絞り込む」段階でこのツール・機会がどのように使いこなされたのか?も気になりました。

選択肢から選ぶという行為であっても、票を投じた人にとっては自分も直接決定に関わったという経験値を持つことで、結果として地域への参加意識を高まり、地域の出来事を自分ごとにする機会になるはずであり、意味があると思うのですが、与えられた選択肢を選ぶ行為の経験だけでは計画(施策)に対するプロセスとして十分とは言えません。

もし将来に向けて Decidim のような双方向で意見を交わせるツールを用いた議論する場として使いこなそうとすれば、運営者のファシリテーション技術と強いビジョンが強く求められることになると思います。
双方向で開かれた場には、多様な立場や背景、属性を持った参加者が加わることになると思いますが、自らの主義主張だけを一方的に発信(押し付け)したり、異なる意見を牽制したり誹謗中傷をぶつけ合ったりするような場となってしまえばせっかくのツールが怖い場所、近づきたくない場所となってしまいます。オープンディスカッションがスムーズに進み、建設的な意見の収集と形成の場になるには、運営者(行政)に「何のために」に関して明確なビジョンがあり、加えて場を建設的に活性化させる「使いこなし」の技量が必要になるということです。

住民説明会による合意形成

さて。運営者(行政)による明確なビジョンと場の「使いこなし」の技量の必要性という話をしましたが、デジタル的手法ではないですが、合意形成を目的とした手法として「住民説明会」があります。
そのことについて、少し前(2020年3月)の記事ですが、東洋大学PPP研究センター長 根本教授がインタビューで答えている内容を参考にして、併せて考えてみたいと思います。

記事の中で住民説明会による合意形成に関する問題提起として、根本教授は

■1つの事業に投資をすると他の事業には投資ができないといった「トレードオフ」にある局面での合意形成は「住民説明会」の実施とプラスアルファとして質疑応答をその場で行う程度の情報提供にとどまっている
■各自治体は、策定した「公共施設等総合管理計画」を実行していく段階にあるが、市民の反対また市民の意向を受けた議員の反対によって計画が進まない状況が多々ある

新・公民連携最前線 PPPまちづくり 記事(キーパーソン登場)2020.3.17 より

といった状況を捉え、その背景にある理由として考えられるのは

■日本では行政側から市民に提示される情報は限られた選択肢で、それ以外の選択肢がなくどれを選んでも行政の手の内ということになってしまいがち
■(米国との比較において)一口に情報(information)と言っても、情報として提供する中身に違いがある…全ての情報がinformationであることに違いないのですが、balanced informationとして不都合な情報も開示することを前提に両面の情報をバランスよく提供していく、またobjective informationつまり客観的な情報としてできるだけ数字で示すことに違いがある
■日本では、この提供される情報の中身のバランスが取れてない印象
■行政側が市民にどのような情報を提供すべきかという知識や知恵が圧倒的に不足しているように感じる

新・公民連携最前線 PPPまちづくり 記事(キーパーソン登場)2020.3.17 より

だと言及しています。

予算制約の中での自治体経営とこれからの合意形成

今後の自治体経営では、予算制約の中で事業選択におけるトレードオフ考慮や優先順位付けの明確化を余儀なくされる状況が増えるはずです。そうした状況の中でオープンディスカッション的手法を採用するならば、乏しい情報の中で単に賛成か反対かを求めるような情報提供では不十分な議論しかできないことは明白です。
ましてデジタルツール、特にインタラクティブなデジタルツールを活用した住民参加を導入するのであれば、それは即ち受け手による情報内容の理解度や到達範囲の差があることも前提として踏まえ、客観的でバランスの取れた情報開示が必須ということです。それ抜きに建設的な議論が行われるはずもなく、結果として合理的は判断が下されることも期待できないと思います。

改めて、合意形成を形成する上で重要な点をまとめると、先に示した”「何のために」に関して明確なビジョンがあり、加えて場を建設的に活性化させる「使いこなし」の技量が必要 ”という指摘に加えて、" 好都合・不都合の両面からの客観的な情報の積極的な提供  "だと思います。

余談)合意形成に際して。「妥協」の意味を捉え直す

オープンディスカッションの場がうまく整理されたとして、それがより機能するために必要なことの一つに「妥協」を捉え直すことがあると思います。

妥協というと、双方がそれぞれ欲しいもの(こと)がある際、交渉の結果、欲しいもの(こと)を取れない、諦める、失う…というネガティブな印象を強く持つ人が多いのではないでしょうか。
しかし、交渉場面で双方の主張・条件を出し合い、それを理解し、受け入れ合い、譲り合うことで元々の意思・意図からいくつかを実現する(得る)、と考えるとそれはポジティブな印象に変わります。

建設的に活性化させる上では、参加者の「妥協」の受け止め方を少し変えることも大切だと思います。


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