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PPP的関心【PFI事業「方式」が気になった鎌倉市の市営住宅再編】

いよいよ2021年度も最終日の3月31日。色々環境が変わって、時間が余ったことで再開した週2回のnote定期更新も31週目に入っています。そのようなタイミングでやってくる新年度ですが、私にとっても新たな取組みを始めることもあって楽しみな予感満載、といったところです。
今回は神奈川県鎌倉市がPFI方式による市営団地建て替え事業の優先交渉権者を決定したというニュースの中から、PFI事業の「方式」の類型について若干気になったことを題材にしてみます。
注)写真は以前取材した住宅改修@ベルリンの視察記録で、本文の内容とは無関係です

PFI事業による市営住宅の集約、建て替え事業

鎌倉市は、2015年策定の「鎌倉市公共施設再編計画」において、老朽化が進む市営住宅6団地を2団地程度に集約し、PFI事業で整備・運営を行うとした。今回の事業は、深沢クリーンセンターと、隣接する笛田住宅を撤去して新たに住棟を整備し、笛田住宅・深沢住宅・梶原住宅・梶原東住宅・岡本住宅の入居者を対象に移転支援を行うもの。

高齢化や少子化による市民の担税力の低下と社会保障費負担の増加によって老朽化した公共施設の建て替えた統廃合、他施設との複合化をはじめとする再編計画は、どの自治体にとっても「やらねばならない事業だけれども費用の捻出やタイミングをどうするか」が悩ましい事業になりつつあります。
今回の記事の当地・鎌倉市も高齢化率についてみてみると、令和3年年末で約30%(R3.12)と、神奈川県、全国の水準と比べると若干ではあるものの「先を行く」状況となっています。おそらくそのような背景もあり市営住宅の集約・再編を含む建て替えを PFI 事業で行うことが一つの選択として検討されたのではないかと思います。

鎌倉市のPFI事業における事業方式「BT」とは

おさらい。PFIの事業方式と事業類型

内閣府の民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)のサイトにある「PFIの事業方式と事業類型」では以下のように説明されています。

Q)PFIの事業方式にはどのようなものがありますか?
A)BTO方式、BOT方式、BOO方式及びRO方式等のいくつかの事業方式があります。例えば、BTO方式の場合、Build(建てて)-Transfer(所有権を移転して)-Operate(管理・運営する)の頭文字をとってこのように呼ばれています。
Q)これらの方式の主な違いはどこにあるのですか?
A)RO方式を除いた3つの方式は、供用開始後(工事完成後)の施設の所有者が違います。BTO方式では地方公共団体が、BOT方式及びBOO方式では民間事業者が施設の所有者となります。

内閣府ホームページより抜粋
PFI事業方式。内閣府ホームページより抜粋

Q)PFIの事業類型にはどのようなものがありますか?
A)地方公共団体が民間事業者へお金を支払う形態をサービス購入型(民間事業者が自ら調達した資金で施設を設計・建設し維持管理及び運営を行い、地方公共団体はそのサービスの提供に対して対価を支払う)といいます。
一方、地方公共団体が民間事業者へお金を支払わず、利用者が料金を支払う形態を独立採算型(民間事業者が自ら調達した資金により施設を設計・建設し維持管理及び運営を行い、施設利用者からの料金収入のみで資金を回収する)といいます。
なお、サービス購入型と独立採算型を合わせた形態(以下「ミックス型」といいます。)もあります。

内閣府ホームページより抜粋
PFI事業類型。内閣府ホームページより抜粋

例示されていないBTとは。

BTとは、Build(建てて)-Transfer(所有権を移転する)施設の設計・建設のみを行うPFI事業です。対象の公共施設が完成した後に一括払いで公共事業者が買い取る方式です。先に紹介したBTO方式やBOT方式のような「Operate(管理・運営する)」すなわち維持管理・運営業務が民間事業者の役割範囲にはいらない方式です。
維持管理・運営業務は公共事業者が自ら行うか、またはPFI事業の契約とは別に指定管理者の選定をして行うことになります。

今回の事業はBT方式の選択が適していたのか

ということで、今回の市営住宅再編におけるPFI事業では維持管理・運営業務は公募事業範囲外ということになっているわけですが、今回の優先交渉権者の決定に際して事業者選定審査会からの講評に「なお鎌倉市は、近隣住民を含めた人と人のつながりを生む工夫、共用空間の活用方法、高い緑化率に対する維持管理についての入居者負担への配慮、団地全体の顔となる県企業庁水道路から団地内へのアプロ ーチ、団地マネジメントにおける他団体との連携等をさらに充実させるべく、事業実施にあたっては、最優秀提案者と協働を図られたい。」とあり、運営や維持管理の業務範囲について追加的な注文が鎌倉市に対して投げかけられています。

今回のプロジェクトでは「運営」の要素が今後の施設としての持続可能性や新たに移り住んでくる新・居住者のコミュニティの形成が重要であることが踏まえられた「追加注文」だったと考えられるわけですが、一方で市としては事業方式にBOTやBTOを選択することで参入事業体の組成に時間がかかる可能性などを考慮して事業スピードを優先させたいとか、管理業務については従前からのやり方が利益(利点)が大きいと考えたなどBT方式を選択した理由は様々考えられそうです。

本当の背景は分かりませんし、複数方式から十分情報と多様な視点から検討された上での判断だと思いますので、BT方式を選択した結果についての良し悪しや要・不要をコメントする意図はありません。
しかし、まずは整備すれば良いのだ、と見えるような取り組み方は当事者にとっても入居者にとっても「良い品質のサービスが実現するのか」に疑問を残しかねない、そんなことを記事を読んで思った次第です。


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