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矢部明洋のお蔵出し 日記編1999年6月

▼6月某日・みえぞうのウンコ

  9カ月になったみえぞうだが、おっぱいと離乳食を併用しているせいで最近、ウンコが臭い。
 おっぱいだけの頃は、ヨーグルトのような匂いだったので私は「カレーヨーグルト」と親しみを込めて呼んでいた。抵抗なくオムツも替えてやっていたものだ。しかし、最近は立派なムリムリ・ウンコで、匂いも一人前に臭いので、オシッコの時しか私はオムツを替えないことにしている。  一度などオムツの背中の部分からウンコがはみ出しそうになっているのを発見した。当然、すぐに愚妻に通報した。「替えてやってーな」と一度は抵抗した愚妻だが、危機一髪の状況を看過できず、程なく作業に着手するのであった。
 臭さも成長の証しと考えれば、ムリムリ・ウンコも頼もしいものだ。先日、亡くなった父が生前、口癖のように言ってた言葉を思い出す。
「屁は鳴り物の御大将。笛や太鼓に匂いなし」
偉そうな講釈をたれた後、「ぷー」と一発かましてくれたものだ。「同様にウンコも臭くて一人前やんなー」と我が子のウンコに感慨を新たにしている。
 しかし、自分の手を汚さず、こんなことを書いてる私って、ひょっとして最低の父親?
 


▼6月某日・しびれるちんちん

  うんこの次にちんちんの話で恐縮である。
 ある朝、日課の自転車をこいだ後に、ちんちんがしびれているのに気が付いた。ちょうど長時間、正座すると足がしびれるのと同じ感覚。
 4月、「自転車に乗りすぎるとインポ」になるという記事を某週刊誌デスクの依頼で書いたばかりだっただけに、ちょっと真剣に考えた。
 記事のネタ元は米国泌尿器学会の研究発表なのだが、米国の自転車愛好家という連中は国土が広いせいもあって、無茶苦茶な時間と距離を乗るのでインポテンスも起こり得るらしい。マウンテンバイク流行りの昨今はダートコースで会陰部を強打する例も多く、男性は注意が必要ということだった。
 私の場合は、ほんの20分程度、坂道をこいだだけなのだが、しびれがきたきた。サドルが悪いせいもあろうが、男性の皆さん自転車にはやっぱり注意が必要なようです。
 しかし、ぎっくり腰をやってもう3カ月。今でも腰が本調子ではない。本当に自転車は腰への負担が少ないのだろうか不安になってきた。
 

▼6月某日・『ナニワ金融道』のリアリティー

  取材で宇部市にあるまんが喫茶に行った。
 不況で仕事も暇なのか20~50代まで幅広い年齢層のサラリーマンでいっぱいだった。
 それはさておき、店主のO本氏と漫画について雑談したところ、『ナニワ金融道』の評価で一致した。
 この画期的におもしろい漫画を成立せしめた要素の一つは背景の緻密な書き込みである、という点だ。なにせ室内の本棚の本の背表紙まで一つ一つタイトルの書き込みがある。街角の看板の一つ一つにも作者のメッセージが記されている。一コマ一コマ、細部に至るまでスキなく情報が詰め込まれている。この情報量の多さが作品に類をみないリアリティーをもたらし得たのである。
 小説であれ、映画であれ、漫画であれ、虚構である作品世界にリアリティーをもたらすのは情報量である。
 一例を示せば寅さん映画だ。善意の人ばかり登場する、あの作品世界は一種のユートピアといえる。それでも寅やタコ社長がリアリティーを失わない秘密の一つは、あの映画の緻密な画面づくりにある。特に柴又の場面で顕著なのだが、画面が柴又色を醸し出す大道具・小道具で埋め尽くされている。屋外シーンで背景が大きくなると、通行人らを使って必ず柴又色を出すような小芝居をやらせている。山田洋次の視線が画面の隅々にまで行き届いているのが分かる。細部をおろそかにしない仕事ぶりが寅さんの物語を絵空ごとで終わらせないのである。
 『ナニワ金融道』には、物語のリアリティーを成立させるのは情報量であることを改めて教えられた。
 

▼6月某日・山口に裸族現る

  夜、帰宅すると愚妻がTシャツの前をたくしあげ、乳を放り出して台所に立っている。
「何やっとんね」と問うと、授乳の際、愚息・みえぞうに乳首を噛まれ、傷が痛いという。
 そう、9カ月目にしてみえぞうに歯がはえてきた。
 まだ、初めて手にするものは何でもまず口に入れて確認しようとする未熟者なので、変な物を食ってないかと、よく口に指を突っ込んで探ることがあるのだが、指の歯ごたえが快感なのか、嬉しそうに食いついてくる。まるで夜店のヒヨコ釣り状態だ。
 ま、みえぞうの歯は慶賀であるが、くそ暑い日が続くのに、パンクな愚妻が家の中を乳を放り出して歩いている風景は、まるで川口浩探検隊シリーズ『幻のアフリカ裸族を見た!』である。
 みえぞう、乳は加減して吸ってやれ。
 

▼6月某日・SWの日本趣味

  山口にある唯一の映画館に行くたびにスター・ウォーズの予告編を見せられる。
 海の向こうでは大騒ぎしてるようだが、当方、あの20年近く前の初上陸時もSWに全く血湧き肉踊らなかったヒネクレ者なので、今度のシリーズも「こきおろしてくれるわ」と変な意味で楽しみにしている次第。
 予告編をちょっと見ただけだが、今度も日本趣味プンプン。
 ヒロインのヘアースタイルは、日本髪を意識している。
 悪役の顔面ペインティングは歌舞伎のくまどり。
 ヨーダの顔つきが若くなってるあたりは芸がこまかいね。しかし、ヨーダの語源も溝口作品でお馴染みの脚本家・依田(よだ)義賢なんでしょ。
 ルーカスが今度は黒沢映画から何をパクっていったか見つけるのが楽しみだ。
 こんな楽しみ方しかできないって不幸なんだろうな。
 『E.T.』すら白けちゃったもんなー。

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