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ラグビーと旧約聖書の“時間”

日本聖公会・名古屋聖マタイ教会の教会報(2023年9月23日発行)に掲載した原稿です。

実は僕、ラグビー経験者なんです

 ……意外でしょう?高校入学後、一年間だけラグビー部に所属していました。小柄で足が速かったので、ポジションはバックスの「スクラムハーフ」「ウイング」「フルバック」でした。9月8日に開幕したラグビーワールドカップは、ルールの解説役で、家族と一緒に観戦しています。

ボールよりも後ろでプレー

 ラグビーはルールが複雑で、試合を観戦していても、初心者の方にとっては試合が今どのように展開しているのか分かりづらいと思います。でも、次のルールさえ覚えていれば、きっと楽しめるはずです。それは「ボールよりも前でプレーをしてはいけない」というルールです。
 ボールが動いている時も、地面で静止している時も、選手たちはボールよりも前(相手陣地の方)に出てプレーに関わってはいけないのです。ボールを味方にパスする際、必ず「後ろ(あるいは真横)」にいる味方に渡さなければならないのは、そういうルールがあるからなのです。
 ボールを「後ろ」にパスしながら「前」に進んでいく――。つまり、ボールが辿る時間の流れは「前が過去」「後ろが未来」ということになります。あれ?でも、ゴールという「未来」は「前」にあるのです。不思議ですね。

未来は前?後?

 ラグビーの時間の進み方は、旧約聖書における時間認知と似ている気がします。ヘブライ語で「前(=東)」を意味するקֶדֶם(qedem)は「古い(過去)」を、「後ろ(=西)」を意味するאָחוֹר(achor)は「未来」を表す語としても用いられています。我々は基本的に、未来は前方、過去は後方という時間認知を共有しているかと思いますが、それとは逆ですね。
 旧約時代の人々はどうしてこのような時間認知を持っていたのでしょう。理由は分かりませんが、ラグビーとの関連で考えてみると理解しやすいかもしれません。未来(ゴール)は前方にあるけれども、自分から向かってきてくれるものではない。だから、自らボールを持って前進する必要がある。しかし、一人の力では限界があるから、多くの場合は、後方から来る仲間たちにボールを託して代わりに前進してもらう。そうして一進一退を繰り返しながら、未来への道をみんなで切り拓いていく。前方の未来を追い求めるだけでなく、後方の未来に期待するのが古代イスラエルの人々の生き方だったのかもしれません。

ラグビーの伝説について

 ちなみに、「ラグビー」というスポーツは、1823年、イングランドの学校で行われていたフットボールの試合中に、突然、一人の生徒がボールを持ち上げて走り出したことがきっかけで生まれたと伝えられています。その生徒の名前はウィリアム・ウェッブ・エリス。彼はのちに英国教会の司祭となりました。彼に関して調べてみたのですが、紙面の都合上、ここで“ノーサイド”です。というわけで、この話はまたの機会に。

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